3
「・・・ウルガ」
「っ・・・なんだよ」
低い声が、ウルガの鼓膜を打つ。いつもと全く異なる声に、背筋が冷えるのを自覚したがザビィの腕だけは放さなかった。
「腕放せ。んで、あれ取って来い」
「ヤダ」
命令調で言い捨てられ、むっとし言い返した。が、ザビィは本気で怒り心頭・・・と言うか任務達成の責を担った暗殺者の顔をしていた。
それでもウルガは放さない。それと同時にフリーズもザビィの腕を掴む。小さな子どものように無言で訴える二人をザビィは見る。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
三人はじっと動かない。まるで均衡の取れた天秤のように、じっとしていた。しかしぎりぎりで切れなかった縄のような危うさもあった。それをわかっていたからシャルは何もできなかった。ローランも声が出せずにいた。
その均衡を破ったのはザビィの大きな溜め息だった。とりあえず自分の腕にしがみ付くように捕まっていた二人を引き剥がし、蒼と翠の頭をわしわしと撫で回す。
「分かった分かった、やんねえよ」
「爺ぃ・・・!」
「あと、町の連中助けんだろ?」
「ザビィ・・・!」
喜びに顔を明るくした二人を尻目にザビィはローランを見下ろす。黄緑色の目は、ローランの赤茶けた髪を写していた。
「今回だけだ、『赤乱の獅子』」
「・・・」
「次は殺す・・・ま、今回のてめえプライドずったずたにしてやんのも悪かねえか」
「な・・・」
「『けが人は戦場にでてはいけませーん!』」
シャルの口調の真似なのか、いつもより高い、強いて言うなら気持ち悪い声音でローランを全力で莫迦にした。
莫迦にされたローランは言い返そうとするも自分が怪我をしているのは事実なので言い返せない。止めにフリーズが
「そうですよ、安静にしていてください」
というもんだから、ぐうの字も出せなかった。
其の隣でザビィは頭をかいていた。
(全く・・・俺様も甘くなっちゃったなあ・・・)
暗殺者失格だと苦笑した。
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