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さようなら つれてきてしまって ごめんなさい
あの後、エイルカリアに礼をいい下界に下りて宿に帰ったファイとシャルは、フリーズたちへの挨拶もそこそこに自室に引きこもってしまった。
(シャルが、うまく言ってくれるだろ・・・)
そう思うことにして、ファイは服も脱がずに寝台に倒れる。あの時感じた吐き気はもうしない。ただ、堕ちていくような不快な浮遊感を感じていた。
仰向けになって、染みの付いた天井を見る。エイルカリアの台詞を思い出す。それだけでかたかたと腕がみっともなく震える。
「・・・っ」
自分が何者なのか、はっきりしたはずなのに。
自分は其の答えを求めていたはずなのに。どうしても釈然と行かず、それ以前に事実に恐怖さえしている。
「・・・俺、は」
何を求めていたんだろう。本当は自分が何者なのかという疑問はただの言い訳だったのかもしれない。
−−−−−言い訳?何に対して?
(何を・・・)
もう自分が分からない。自分の出生を知ったと言う事実。それだけで、ファイは自分の日常をたやすく見失ってしまった。
あとは子どものように迷うだけ。
(頭ン中ぐちゃぐちゃする・・・)
何も考えたくなくて、目を閉じた。
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