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邪神戦から数日。あの後楽園【エデン】は少しだけ活気を取り戻していた
そしてとある宿の一角にて。
「ファイちゃん、あーん」
「…」
餌を待つ雛鳥の様に、口を大きく開けてザビィは上機嫌だ。
一方、待たれているファイは何かエグイ物でも見る様な目をして固る。
その手には皿があり、上に乗っているのは綺麗に剥かれ八等分された林檎だ。ちなみに反対の手にはフォークを持っている。
「ささ、ファイちゃん早く」
「…」
少し、考える。
「ファイちゃんっ」
「……」
ものすごく考える。
結論。
「…自分で食え」
「えぇー!」
心底残念そうなザビィに心底嫌そうな顔(もう表情に出てる)を向けたファイはずっと思っていた事を聞く。
「お前、怪我してねぇのになんで病人扱いになってんの?」
「えへっ☆」
「えへっ☆ウザい」
「ひどいっ!!」
そうなのだ。確かに数日前の邪神戦の際にシャルに治して貰った筈なのだ。事実、右胸に空いた穴は完全にふさがっている。
「羽根っ子が、邪神の身体の粘膜から発せられる邪気が体内に入ってたら大変だから暫く安静です!ってさ」
「よし今直ぐ運動しようか」
「暗に死ねってか!否待て…運動…ああそう言う意味ね!おにーさん理解しちゃったよ!!さぁ頑張ろうか子作」
「冥界に墜ちろ。そして消えてしまえ」
言うや否やファイは手にしていたフォークをかなり本気でザビィの頭部目掛けて突出す。
その渾身の一撃をザビィは何事もなさげにひょいと躱してにやにやとファイを見る。
ちなみに言うまでもないがザビィの後ろの壁にはフォークが深々と刺り、罅が入った。
「そんなことやっちゃって〜フリーズとローラン隊長殿にばれたら大目玉ですなぁ」
「ぐっ…」
ファイがフリーズとローランに叱られるのを苦手としているのを薄々勘付いていたザビィはファイが詰まったのを見て確信した。
「林檎、食べさせてくれたら言わないのになぁ?」
「……」
腹立たしい。この男の計算に乗せられるのは屈辱意外の何物でもない。しかしここでやらねば確実に密告ちくられる。本気で腹立たしい。
「…」
すごく嫌そうにフォークに林檎を刺し、ザビィの口許に運ぶ。ザビィはそれを食べた。と思った。
「これ旨いな」
「……」
自分が食べる筈の林檎がファイの口の中で咀嚼され、飲み込まれる。
呆然とそれを見ていたザビィだが事情を理解した瞬間喚き出した。
「ファイちゃんひどいっ!」
「何が?林檎食っただけだぜ?」
してやったりな顔をしたファイを恨めしげに眺めていたザビィは林檎をひとつ手で取り食べる。
酸味より甘味のが強く、丁度食べ頃だったんだと思った。
「自分で食えるじゃねぇか」
「病人の心情としては誰かに甘えたいんですぅー」
ふてくされたザビィにファイは盛大に溜息をついた。付きながらも林檎を刺す。
それをザビィの口に引っ付けた。
「…何?」
「食わせて欲しいんだろ?」
いきなりの事に困惑したザビィは小首を傾げてそう聞いたファイに慌てて頷く。
そして林檎を咥える。さっきより甘く感じた。
「ファイちゃんもう一個」
「…………」
再び口を開けて催促する眼前の男に対して、軽く青筋浮かべて林檎を刺す。
皿が粉砕されたのは言うまでもない。
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