第十一奏 HART
遅くなってごめんなさい ようやく気付いたんです
自分の気持ち 貴方への気持ち
「よし、終了」
セイレーンを腕輪に戻し、ファイがぱんぱんと手を払う。そしてぼうっと立っているフリーズに大丈夫かと声を掛け様とした。
「おい神父、だいじょうぶ…!?」
ファイの言葉は最後まで言わせて貰えなかった。
フリーズがファイの細い身体を掻き抱く。ほんの少し骨が軋むくらい、強く。
抱締められたファイはその力に辟易する。短い間とはいえ、フリーズがこんな風になった所を見た事が無かったから。
「っ神父…」
「よかった」
文句を言おうとしたファイを遮って、フリーズが口を開く。
「お願いだから、俺の前で眠らないで」
そしてフリーズにしてはかなり、いやものすごく無茶苦茶な発言だ。
「そんな事…」
「こっちは!!」
ファイの耳元でフリーズが叫ぶ。余りに大きなその声にファイの肩がびくりと跳ねた。
「死ぬ程……怖かった…」
「…邪神が?」
「それもだけど…君が消えてしまうんじゃないかって…そう思ったら…俺まで死ぬかと思った…!」
抱締める力が更に籠った。苦しいとファイが思う前に耳に入って来た、フリーズの嗚咽。
「…………ごめんな、俺いるから」
「…っ」
「お前がいいなら…ずっといるから」
ぽんぽんと軽くフリーズの背中を叩く。
いつもとは違う、温かいファイの声でフリーズは更に泣き出してしまう。
つられてファイもらしくなくふわとわらって。
(暫く、このままでいてやろう。)
成すがままになっているファイを抱締めて、嬉しさと邪神に対する今更な恐怖でいっぱいのフリーズの頭の片隅に過ぎったのは。
(俺は、ファイを…愛してるんだ…)
こみ上げる程の 愛しさだった。
楽園【エデン】の空は、蒼色と紅色が綺麗に交ざった黄昏だった。
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