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其の日からそれと綺麗なものとの『言葉』と言うものの練習を始めた。
音―声から出さなきゃいけなかったからそれはもう大変で、『ファイ』と名付けられたそれは綺麗なものを壊そうかと思ったし、綺麗なものも骨が折れたらしく苦笑しながらも懸命教えて入れた。
そんなある日の午後、綺麗なものが『ファイ』の言葉を教える一環として歌っていた。
「―――奏でし乙女の子守唄、さらさらながるる時とともに――」
「―――かな・・でし・・・おとめの・・こもり、うた・・・さらさらな、がる、る・・・」
『ファイ』はそれを聞いて真似たのだ。
「ファイ!!やったね!喋れた・・・と言うか歌ったよ!!」
「が、ばた」
「うん、ファイ頑張ったよ」
そっと頭を撫でられた『ファイ』は、心地よさそうに目を細める。
これをして欲しくていやなことを我慢できるのだ。綺麗なものを壊さないようにしているのだ。
「ファイ、頭撫でてもらうの好きだね」
「あ、たま、すき・・・?」
「今してること」
「すき?」
「うーん・・・嬉しい?」
「・・・?」
『ファイ』には感情なんてものがなかったため、嬉しい、悲しい、楽しい、嫌といったものが分からなかった。
だから『ファイ』が使った表現は
「あ、たかい」
暖かい、だった。
綺麗なものは目を丸くして『ファイ』を見て破顔した。
「そっかそっか、暖かいか」
「ん、あたた、い」
舌足らずにそう答えた『ファイ』の頭を撫でた。
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