write by 鈴女
ひよこは立ち上がる
plot by ベリー
・リーマンリヴァイ×部下夢主
・リヴァイはちょっと名の知れたウェディングプランナー
・今はほとんど営業にまわっている
・夢主はリヴァイを尊敬しているけどちょっと苦手
リヴァイが勤務する会社はウェディング事業を手掛けているが、決して大きなものではない。ウェディングプランナーとしての腕は確かなのだが、少しずつプランナーも増えてきたことで、培った信頼を元に営業へとシフトチェンジした。
会社も順調に成長している。あとは下の人間が育ってくれれば言うこともない。部下たちとの関係も悪くない。大きな悩みはないが、リヴァイには一つ気になることがあった。それは入社二年目になる夢主のことであった。
ウェディングプランナーになることが夢だった夢主は、観光ブライダル事業を手掛ける○○会社(ここは社名つけてもつけなくても)に入社してきた。とりたてて器用なわけではないが、気が利き営業先にも概ね好評である。この業界は表面的には華やかだが、地味で面倒なことも多い。事実華やいだイメージに釣られて入社した新人も、二年目にはいなくなっていた。残った社員の中に夢主がいた。夢主には憧れのプランナーがいて、それがリヴァイだった。業界自体にも憧れていたが、リヴァイがインタビューを受けている冊子記事を目にし、それがきっかけで絶対にここに入社すると決めていたらしい。
今はもう滅多にプランに関わることはないが、部下へのアドバイスはしている。当然彼女は憧れていたリヴァイから学べると高揚していた。しかし実際に会ってみると、淡々としている態度が勝手に想像していた姿とあまりにもギャップがありすぎて、どうしていいかわからなくなってしまった。
「お前、俺のことが苦手か?」
いつも緊張し、なかなか目を合わせない夢主に、リヴァイはストレートに聞いた。自分の容姿は理解している。営業時は辛うじて保っているが、決して愛想が良いわけでも、気の利いた言葉がすぐ出てくるわけではない。
だから雑誌に載るのが嫌だったのだ。無理に作った自分と文面で、勝手にイメージが膨らんでいくのだから。恐らくは彼女もそうなのだろうと想像するが、頑張っている彼女には力をつけて欲しくて、リヴァイは内心落ち込みながら(ここ重要)、何かと世話を焼いていた。
「苦手、というか……その」
申し訳なさそうにする夢主。
夢主もそれはよくわかっている。しかし、苦手意識はなかなかとれず、リヴァイと話す時は必要以上に緊張してしまっていた。
他の社員と話す時は人懐っこい笑顔をしていて、リヴァイはいつ自分もそうやって話せるのかと密かに期待していたが、一年経ってもそれは叶わない。色恋ではない(はずと思っている)が、少なくとも彼女に好感を持っているのだから、やはり多少なりともその態度は気になってしまう。
ある日、彼女を伴って新規の営業に赴く。対応してくれた男が、夢主をジロジロ見ていて、彼女も居心地が悪そうだった。リヴァイの勘が働き、これは早々に彼女を連れて退散するべきと判断を下す。しかしタイミングを逃し、しかも彼女とその男を残し、リヴァイはお偉方と別室で挨拶するため退室するはめになる。
「すぐに戻る」
「大丈夫です」
彼女は不安そうな顔をするも、辛うじて笑みを浮かべて送り出した。残された夢主は、男の態度に困る。隣に座られ、プライベートなことを根掘り葉掘り尋ねられ、それにも飽き足らず食事に誘ってきた(王道展開)。営業の成功がかかっていると圧をかけられ、縮こまる夢主。早くリヴァイに戻ってきて欲しい。何なら自ら部屋を飛び出そうとも思ったが、そんなことをしたら相手を怒らせてしまう。
ああ、自分はこんなにリヴァイのことを信頼していたのだと、夢主は気付く。
その時扉が開き、リヴァイが傍目には表情を変えず、しかし内心はかなり焦って戻ってきた。
「……今なら穏便にしてやる」
「は? 何だその口の利き方は」
低い怒気を孕んだ唸り声だった。
隣にわざわざ移動することは必要なかったはず。なのに男は距離をつめて座っている。腹が立った。営業は大切だが、部下を馬鹿にされたような気がして、嫌悪が勝った。
「帰るぞ」
「でも、」
「大丈夫だ。会社の奴らもわかってくれる。何より、契約よりもお前のほうが大切だ」
こんな状況になって、初めて自分の気持ちにリヴァイは気付いた。頑張る姿が好ましいと思った。自分にも笑顔を向けて欲しいと思った。それは部下とうまくやっていきたいという社交的なものではなく、特別なものだった。ただ、自分は三十も半ばを迎えようとしているのだから、まだ二十代前半の夢主にそんな気持ちを持つはずがないと思っていたのだ。
気持ちを自覚してからというもの、リヴァイはプランナーの仕事を夢主に教えるという理由で時折企画を手掛けるようになる。しかも自分たちが挙式するとしたら……というまだ付き合ってもいないのに、気の早い想像をしながら企画を進めるようになってしまった。
「末期じゃねぇか」
「何か言いましたか?」
最近は一緒にいる時間も増えた。以前より距離は縮まったように感じる。しかし依然向けられるのは、恋心ではなく尊敬。リヴァイはいつこの関係から一歩前に進めるのかと、頭の痛い日々を送る。
*この時、夢主もリヴァイを好きになっていてもいい。両片想い万歳
・リヴァイはちょっと名の知れたウェディングプランナー
・今はほとんど営業にまわっている
・夢主はリヴァイを尊敬しているけどちょっと苦手
リヴァイが勤務する会社はウェディング事業を手掛けているが、決して大きなものではない。ウェディングプランナーとしての腕は確かなのだが、少しずつプランナーも増えてきたことで、培った信頼を元に営業へとシフトチェンジした。
会社も順調に成長している。あとは下の人間が育ってくれれば言うこともない。部下たちとの関係も悪くない。大きな悩みはないが、リヴァイには一つ気になることがあった。それは入社二年目になる夢主のことであった。
ウェディングプランナーになることが夢だった夢主は、観光ブライダル事業を手掛ける○○会社(ここは社名つけてもつけなくても)に入社してきた。とりたてて器用なわけではないが、気が利き営業先にも概ね好評である。この業界は表面的には華やかだが、地味で面倒なことも多い。事実華やいだイメージに釣られて入社した新人も、二年目にはいなくなっていた。残った社員の中に夢主がいた。夢主には憧れのプランナーがいて、それがリヴァイだった。業界自体にも憧れていたが、リヴァイがインタビューを受けている冊子記事を目にし、それがきっかけで絶対にここに入社すると決めていたらしい。
今はもう滅多にプランに関わることはないが、部下へのアドバイスはしている。当然彼女は憧れていたリヴァイから学べると高揚していた。しかし実際に会ってみると、淡々としている態度が勝手に想像していた姿とあまりにもギャップがありすぎて、どうしていいかわからなくなってしまった。
「お前、俺のことが苦手か?」
いつも緊張し、なかなか目を合わせない夢主に、リヴァイはストレートに聞いた。自分の容姿は理解している。営業時は辛うじて保っているが、決して愛想が良いわけでも、気の利いた言葉がすぐ出てくるわけではない。
だから雑誌に載るのが嫌だったのだ。無理に作った自分と文面で、勝手にイメージが膨らんでいくのだから。恐らくは彼女もそうなのだろうと想像するが、頑張っている彼女には力をつけて欲しくて、リヴァイは内心落ち込みながら(ここ重要)、何かと世話を焼いていた。
「苦手、というか……その」
申し訳なさそうにする夢主。
夢主もそれはよくわかっている。しかし、苦手意識はなかなかとれず、リヴァイと話す時は必要以上に緊張してしまっていた。
他の社員と話す時は人懐っこい笑顔をしていて、リヴァイはいつ自分もそうやって話せるのかと密かに期待していたが、一年経ってもそれは叶わない。色恋ではない(はずと思っている)が、少なくとも彼女に好感を持っているのだから、やはり多少なりともその態度は気になってしまう。
ある日、彼女を伴って新規の営業に赴く。対応してくれた男が、夢主をジロジロ見ていて、彼女も居心地が悪そうだった。リヴァイの勘が働き、これは早々に彼女を連れて退散するべきと判断を下す。しかしタイミングを逃し、しかも彼女とその男を残し、リヴァイはお偉方と別室で挨拶するため退室するはめになる。
「すぐに戻る」
「大丈夫です」
彼女は不安そうな顔をするも、辛うじて笑みを浮かべて送り出した。残された夢主は、男の態度に困る。隣に座られ、プライベートなことを根掘り葉掘り尋ねられ、それにも飽き足らず食事に誘ってきた(王道展開)。営業の成功がかかっていると圧をかけられ、縮こまる夢主。早くリヴァイに戻ってきて欲しい。何なら自ら部屋を飛び出そうとも思ったが、そんなことをしたら相手を怒らせてしまう。
ああ、自分はこんなにリヴァイのことを信頼していたのだと、夢主は気付く。
その時扉が開き、リヴァイが傍目には表情を変えず、しかし内心はかなり焦って戻ってきた。
「……今なら穏便にしてやる」
「は? 何だその口の利き方は」
低い怒気を孕んだ唸り声だった。
隣にわざわざ移動することは必要なかったはず。なのに男は距離をつめて座っている。腹が立った。営業は大切だが、部下を馬鹿にされたような気がして、嫌悪が勝った。
「帰るぞ」
「でも、」
「大丈夫だ。会社の奴らもわかってくれる。何より、契約よりもお前のほうが大切だ」
こんな状況になって、初めて自分の気持ちにリヴァイは気付いた。頑張る姿が好ましいと思った。自分にも笑顔を向けて欲しいと思った。それは部下とうまくやっていきたいという社交的なものではなく、特別なものだった。ただ、自分は三十も半ばを迎えようとしているのだから、まだ二十代前半の夢主にそんな気持ちを持つはずがないと思っていたのだ。
気持ちを自覚してからというもの、リヴァイはプランナーの仕事を夢主に教えるという理由で時折企画を手掛けるようになる。しかも自分たちが挙式するとしたら……というまだ付き合ってもいないのに、気の早い想像をしながら企画を進めるようになってしまった。
「末期じゃねぇか」
「何か言いましたか?」
最近は一緒にいる時間も増えた。以前より距離は縮まったように感じる。しかし依然向けられるのは、恋心ではなく尊敬。リヴァイはいつこの関係から一歩前に進めるのかと、頭の痛い日々を送る。
*この時、夢主もリヴァイを好きになっていてもいい。両片想い万歳
write by ベリー
Feathery Rain
plot by 鈴女
天使リヴァイと堕天使夢主。
夢主→リヴァイ
リヴァイから夢主への矢印について、プロット序盤では敢えて明記していません。(書く時にはご自由に!)
リヴァイは天使、夢主も元は天界で天使だった。
だがある日、主なる神ユミルの怒りを買ってしまう。
ユミルの怒りの原因は、夢主が小さな子供の天使に嫉妬したこと。
ある日。まだ年端もいかない少女の天使がリヴァイに懐き、べたべたとくっついていた。
夢主はそれに嫉妬し、少女をべりっとリヴァイから引きはがした。
「私だってリヴァイが好きなの。あなたばっかりリヴァイにくっついちゃダメ」
夢主が少女に噛み付くや否や、天界に黒雲が立ち込める。
主なる神、ユミルが現れた。
「子供とは、天界下界問わず世の宝であり、慈しむべき存在である。その子供に対して嫉妬するとは何事か。天使たるもの、常に大いなる愛でもって、全体の幸福のために行動しなければならない。お前のそれは、大いなる愛ではない」
夢主は人間界へと堕とされた。
白く美しかった夢主の翼は、堕天させられると同時に片側の翼がもげ落ちた。残った片側の翼も黒く染まった。小ぶりで綺麗に整列していた歯も八重歯が大きく肥大して牙となった。
夢主の纏っていた白はすべて黒へと染まり上がった。
天使だった頃からはおよそ想像もつかない、凶悪な悪魔らしい風貌にさせられた夢主は絶望する。
「こんなんじゃリヴァイの隣に並べない。綺麗なリヴァイの隣にはいられない」
もっとも、夢主が望んでも望まなくても天界にいられるもう術はない。堕天使となった夢主は人間界へと堕とされたのだから。
天使リヴァイは天界で、堕天使夢主は人間界で。
二人の世界は別たれた。
夢主が復天するためには、ユミルの言いつけを守らなければならない。
言いつけは、「大いなる愛で以って、小さき存在である人間を助け、善行を積むこと」。
夢主はユミルの言う通りに、人間を助け、善行を積んだ。悪事を企む者がいれば行って未然に防ぎ、ひもじい思いをしている者がいれば行って施した。
夢主は必死に、小さき存在=慈しむべき存在である人間を救い続ける。それが復天につながると信じて。
正直なところ、夢主の善行は、大いなる愛で行っている行為ではなかった。
リヴァイのそばにいたい。リヴァイの隣に戻りたい。その一心で人間を救い続けているだけである。
つまり夢主の善行は下心からであり、私欲を満たすためのものだ。
だからユミルは許さない。復天はできない。
いくら善行を積んでも復天できない夢主は泣き崩れる。
夢主が人間界のスモッグに塗れた空で泣いていると、突然リヴァイが天界から降りてきた。
白く美しいまま現れたリヴァイは、堕天したわけではない。天使のままの姿で人間界へと降りてきたのだ。
真っ白な羽を左右に大きく広げ、リヴァイは夢主を真正面からじっと見つめた。
「いやだ、来ないで、見ないで」
「なぜだ? お前が会いたがっていたから来たんだが」
「こんな醜い姿、綺麗なリヴァイには見られたくないの!」
それも私欲だ。
堕天使の姿になったのは、子供に嫉妬をするという愚行でユミルの意に背いたからだというのに。
その姿を受け入れられず、見栄のために己の愛する人には見せたくないという私欲。
夢主が復天するためには、完全に私欲を捨て、大いなる愛で以って、真に人間のために尽くす必要がある。 復天した後だって大いなる愛で天界のために尽くさなければいけない。小さな自分の欲を満たすための行動をしてはいけない。そんなことをすればユミルにまた堕天させられるのだから。
わかっている。
だが夢主にはどうしてもそれができない。
どうしてもリヴァイが好きなのだ。
誰かを特別に好きだという夢主の恋心は世界にとって些事だ。
天界で神に仕える天使は、些事を優先してはいけない。もっと大いなる愛で大局的に物事を見て、全体の幸福を優先させなければならない。
だがリヴァイを好きな夢主は、些事である自身の恋心が世界の中心になってしまう。
「もう私、天使に戻れない。リヴァイを好きになっちゃったから。リヴァイを好きな気持ちが止められないから。一緒にいたかったけれど、もう無理」
空の上で大泣きする夢主に、リヴァイは天使のままの姿で口づけた。
夢主の牙が、リヴァイの唇を傷つける。リヴァイの唇からは血が垂れた。
「お前と俺が一緒にいるにはどうしたらいい?」
「わ、私が、小さな恋心よりも大いなる愛を優先して、行動しなければならない。
でもできない、無理、だってリヴァイが好きなんだもん。私はリヴァイを好きな気持ちを、どうしても無視できない」
「できない?」
「リヴァイを独り占めしたいし、リヴァイが誰かと一緒にいるのも辛い。それが例え子供であっても嫉妬しちゃうし、許したくない。リヴァイが他の女の子と話しているのを見るだけで嫌なの。世界の幸福が大事なのはわかってる、でもリヴァイを好きな気持ちだって私には大事なの。
こんな心のままじゃ天使に戻れない。復天できない」
「そうか」
返事をするリヴァイの姿が、消えつつある。
天使は堕天使とは違う。汚れた人間界に長くいることはできないのだ。消えかかっているのは強制的に天界に戻らされる前触れだ。
これでリヴァイとはお別れだ。次にいつ会えるかもわからない。もう会えないかもしれない。
消えつつあるリヴァイを、夢主はわんわん泣きながら見上げる。
突如。
姿がいよいよ消えかけているリヴァイは、自身の片翼を勢いよくもぎ取った。
背中の付け根から鮮血が舞う。途端に薄れかかっていたリヴァイが再び濃くなった。
夢主は驚いて目をまん丸に見開く。涙も止まってしまった。鮮血で赤く汚れたリヴァイが、目の前にいる。 血まみれのまま、リヴァイは夢主を掻き抱いた。
どんどんとリヴァイが濃くなり姿がはっきりしてくる。それはつまり、彼が天使から遠い存在になっているということだ。
血にまみれ、真っ黒な堕天使を抱けば、当然リヴァイは汚れる。消えかかっていたリヴァイは実体を徐々に濃くしつつ、同時に美しかった白が黒く染まりつつあった。
「どうして……!?」
夢主はリヴァイに抱きすくめられたまま、ヒステリックに叫ぶ。
「何やってるの!?自ら堕天するなんて……!早くユミルに許しを請わないと!天界に戻れなくなるよ!」
「もういいんだ」
リヴァイが腕を緩める。抱きすくめていた夢主を解放すると、夢主の視界に再びリヴァイが映った。
「俺ももう、天使としては生きていけないだろう。 大いなる愛よりも、お前と一緒にいたいという私欲が勝っちまった」
リヴァイの残った片翼は黒く染まり、牙も生えていた。
くすんだ人間界の空の上、もぎ取られた片翼の残骸が漂う中、堕天使が二人佇んでいた。
夢主→リヴァイ
リヴァイから夢主への矢印について、プロット序盤では敢えて明記していません。(書く時にはご自由に!)
リヴァイは天使、夢主も元は天界で天使だった。
だがある日、主なる神ユミルの怒りを買ってしまう。
ユミルの怒りの原因は、夢主が小さな子供の天使に嫉妬したこと。
ある日。まだ年端もいかない少女の天使がリヴァイに懐き、べたべたとくっついていた。
夢主はそれに嫉妬し、少女をべりっとリヴァイから引きはがした。
「私だってリヴァイが好きなの。あなたばっかりリヴァイにくっついちゃダメ」
夢主が少女に噛み付くや否や、天界に黒雲が立ち込める。
主なる神、ユミルが現れた。
「子供とは、天界下界問わず世の宝であり、慈しむべき存在である。その子供に対して嫉妬するとは何事か。天使たるもの、常に大いなる愛でもって、全体の幸福のために行動しなければならない。お前のそれは、大いなる愛ではない」
夢主は人間界へと堕とされた。
白く美しかった夢主の翼は、堕天させられると同時に片側の翼がもげ落ちた。残った片側の翼も黒く染まった。小ぶりで綺麗に整列していた歯も八重歯が大きく肥大して牙となった。
夢主の纏っていた白はすべて黒へと染まり上がった。
天使だった頃からはおよそ想像もつかない、凶悪な悪魔らしい風貌にさせられた夢主は絶望する。
「こんなんじゃリヴァイの隣に並べない。綺麗なリヴァイの隣にはいられない」
もっとも、夢主が望んでも望まなくても天界にいられるもう術はない。堕天使となった夢主は人間界へと堕とされたのだから。
天使リヴァイは天界で、堕天使夢主は人間界で。
二人の世界は別たれた。
夢主が復天するためには、ユミルの言いつけを守らなければならない。
言いつけは、「大いなる愛で以って、小さき存在である人間を助け、善行を積むこと」。
夢主はユミルの言う通りに、人間を助け、善行を積んだ。悪事を企む者がいれば行って未然に防ぎ、ひもじい思いをしている者がいれば行って施した。
夢主は必死に、小さき存在=慈しむべき存在である人間を救い続ける。それが復天につながると信じて。
正直なところ、夢主の善行は、大いなる愛で行っている行為ではなかった。
リヴァイのそばにいたい。リヴァイの隣に戻りたい。その一心で人間を救い続けているだけである。
つまり夢主の善行は下心からであり、私欲を満たすためのものだ。
だからユミルは許さない。復天はできない。
いくら善行を積んでも復天できない夢主は泣き崩れる。
夢主が人間界のスモッグに塗れた空で泣いていると、突然リヴァイが天界から降りてきた。
白く美しいまま現れたリヴァイは、堕天したわけではない。天使のままの姿で人間界へと降りてきたのだ。
真っ白な羽を左右に大きく広げ、リヴァイは夢主を真正面からじっと見つめた。
「いやだ、来ないで、見ないで」
「なぜだ? お前が会いたがっていたから来たんだが」
「こんな醜い姿、綺麗なリヴァイには見られたくないの!」
それも私欲だ。
堕天使の姿になったのは、子供に嫉妬をするという愚行でユミルの意に背いたからだというのに。
その姿を受け入れられず、見栄のために己の愛する人には見せたくないという私欲。
夢主が復天するためには、完全に私欲を捨て、大いなる愛で以って、真に人間のために尽くす必要がある。 復天した後だって大いなる愛で天界のために尽くさなければいけない。小さな自分の欲を満たすための行動をしてはいけない。そんなことをすればユミルにまた堕天させられるのだから。
わかっている。
だが夢主にはどうしてもそれができない。
どうしてもリヴァイが好きなのだ。
誰かを特別に好きだという夢主の恋心は世界にとって些事だ。
天界で神に仕える天使は、些事を優先してはいけない。もっと大いなる愛で大局的に物事を見て、全体の幸福を優先させなければならない。
だがリヴァイを好きな夢主は、些事である自身の恋心が世界の中心になってしまう。
「もう私、天使に戻れない。リヴァイを好きになっちゃったから。リヴァイを好きな気持ちが止められないから。一緒にいたかったけれど、もう無理」
空の上で大泣きする夢主に、リヴァイは天使のままの姿で口づけた。
夢主の牙が、リヴァイの唇を傷つける。リヴァイの唇からは血が垂れた。
「お前と俺が一緒にいるにはどうしたらいい?」
「わ、私が、小さな恋心よりも大いなる愛を優先して、行動しなければならない。
でもできない、無理、だってリヴァイが好きなんだもん。私はリヴァイを好きな気持ちを、どうしても無視できない」
「できない?」
「リヴァイを独り占めしたいし、リヴァイが誰かと一緒にいるのも辛い。それが例え子供であっても嫉妬しちゃうし、許したくない。リヴァイが他の女の子と話しているのを見るだけで嫌なの。世界の幸福が大事なのはわかってる、でもリヴァイを好きな気持ちだって私には大事なの。
こんな心のままじゃ天使に戻れない。復天できない」
「そうか」
返事をするリヴァイの姿が、消えつつある。
天使は堕天使とは違う。汚れた人間界に長くいることはできないのだ。消えかかっているのは強制的に天界に戻らされる前触れだ。
これでリヴァイとはお別れだ。次にいつ会えるかもわからない。もう会えないかもしれない。
消えつつあるリヴァイを、夢主はわんわん泣きながら見上げる。
突如。
姿がいよいよ消えかけているリヴァイは、自身の片翼を勢いよくもぎ取った。
背中の付け根から鮮血が舞う。途端に薄れかかっていたリヴァイが再び濃くなった。
夢主は驚いて目をまん丸に見開く。涙も止まってしまった。鮮血で赤く汚れたリヴァイが、目の前にいる。 血まみれのまま、リヴァイは夢主を掻き抱いた。
どんどんとリヴァイが濃くなり姿がはっきりしてくる。それはつまり、彼が天使から遠い存在になっているということだ。
血にまみれ、真っ黒な堕天使を抱けば、当然リヴァイは汚れる。消えかかっていたリヴァイは実体を徐々に濃くしつつ、同時に美しかった白が黒く染まりつつあった。
「どうして……!?」
夢主はリヴァイに抱きすくめられたまま、ヒステリックに叫ぶ。
「何やってるの!?自ら堕天するなんて……!早くユミルに許しを請わないと!天界に戻れなくなるよ!」
「もういいんだ」
リヴァイが腕を緩める。抱きすくめていた夢主を解放すると、夢主の視界に再びリヴァイが映った。
「俺ももう、天使としては生きていけないだろう。 大いなる愛よりも、お前と一緒にいたいという私欲が勝っちまった」
リヴァイの残った片翼は黒く染まり、牙も生えていた。
くすんだ人間界の空の上、もぎ取られた片翼の残骸が漂う中、堕天使が二人佇んでいた。
write by りい
入り口
plot by Licco
8番出口パロ
(お話には入れなくてもいい/どこかに挟んでもどっちでも大丈夫な)前提
・ふたりはつき合って一年が経つ頃
・会社員同士。お互い頭数合わせの合コンにつれてこられ意気投合
・↑合コンに行く前、夢主は前につき合っていた元カレがストーカーっぽくなってつきまとわれていた。
・リヴァイとつき合いはじめ、リヴァイのオーラにビビったのか、元カレは夢主の前から姿を現さなくなった。
つき合って初めての夏。夏季休暇を揃えて取ったふたりは、田舎の夢主の実家に行くために新幹線のターミナルへ向かう。地下鉄からターミナルに行くすがら、夢主が乗り換えアプリを見て「8番出口から出ると一番近いみたい」と言う。
スタバで冷たいもの買おうね、なんて話していると8番出口の標識が見える。この先にはターミナルのある地上に出るための階段が見えてくるはず……しかし歩けど歩けど同じ地下鉄の通路が続く。さっきは「8番出口」とあった標識は「0番出口」になっていた。それにふたり以外、誰も人がいない。
「迷っちまったか」
「アプリ開いてみる」
スマホを開いたとたん、電源が落ちる。
「妙だな」
リヴァイはふと壁のポスターを見る。恋人同士が仲良く手を繋いでいるイラストが描かれていた。「婚活アプリはマッチ・トゥー・ラブで!」とかなんとか書いてある。
なんとなくそれを見ながら、リヴァイはスマホをズボンのポケットにしまい、夢主と手を繋いで歩き始めた。
0番出口の標識は、1番出口になっていた。
すると今度は通路の端に鳥籠がつられていた。中にはインコが二羽入っていて、キスをしている。リヴァイは「まさかな」と思いながらも夢主にキスをする。
「急にどうしたの?」
と言いつつも嬉しい夢主。
それから進んでいくと標識は2番出口になっていた。
次々と目の前に現れる不思議な現象をなぞると、8番出口に向かって出られるのかもしれない。
【以下使っても使わなくても大丈夫!なしょうもないラキスケ?アイデア↓】
・唐突に表れるクマの着ぐるみ二体がハグをしている→ふたりもハグをする
・急に電気が落ちて真っ暗になる→ふたりもハグをする
・地下通路の真ん中におっぱいマウスが落ちている→リヴァイが夢主のおっぱいをぱふぱふする
・地下通路の真ん中に乳牛がのっしのっしと歩いている→リヴァイが夢主のおっぱいをもみもみする
※この辺↑は書いても書かなくても全然大丈夫です。
「ふたりは次々と訪れるミッションをクリアしていった」みたいな一文でスルーしてもいいかと思います。
そして裸のマネキンが置いてある。さすがに彼女を裸にするわけにはいかないので、リヴァイが俺が……と着ていたTシャツを脱ぐ。
リヴァイだけ上半身裸になって進むと8番出口の標識があった。ついに地上に出られる……!しかし通路の「清掃員室」の扉が開いていることに気づくふたり。中には場に不釣り合いな大きなダブルベッドがひとつ置いてある。
「さすがにここで最後まで致せって無理があるだろうが」
着ていた上着を小脇に抱えながらリヴァイは夢主に振り返る。すると夢主が震えていた。
「どうした? さすがにこんなバカげたことにはつき合ってられねぇ。別の出口を探す……」
「違う、違うの! リヴァイを殺したくない。いやだ、私が悪かったから!」
急に狼狽える夢主に「大丈夫だから、落ち着け」と優しく抱きしめるリヴァイ(優しいね)
少し経ってから夢主が「ベッドの裏側にきっと鉈(ナタ)が隠してる」とつぶやく。
どうして、と思いながらもリヴァイが確認してみると、その通りにナタがあった。黒く変色した血がこびりついている。※ベッドは夢主の部屋に置いてあるものと一致していた。※※変な特徴があってもいいかもしれない(例:小学生の頃から貼ったままのポケモンパンのシールとか……)
「リヴァイのことが好き。大好きだから、あの人、邪魔だったの」
そこでリヴァイは察する。夢主の元カレが急にストーカー行為をやめたこと。夢主は元カレの存在をそのナタで消し去っていたのだった。
「ねぇリヴァイ、外の世界は怖いから。もうどこにも行きたくない。リヴァイとふたりがいい。リヴァイと一緒なら、どこにいても大丈夫だから」
リヴァイはふたたび夢主を抱きしめる。
この摩訶不思議な現象が夢主自身が仕組んだことなのか、彼女にくだった罰なのか。
それともそんな彼女を愛してしまった自分への罰なのか考えながら──みたいな感じでフェードアウト。ホラーは得てして後味が悪くてなんぼってことでおあとがよろしいようで。
(お話には入れなくてもいい/どこかに挟んでもどっちでも大丈夫な)前提
・ふたりはつき合って一年が経つ頃
・会社員同士。お互い頭数合わせの合コンにつれてこられ意気投合
・↑合コンに行く前、夢主は前につき合っていた元カレがストーカーっぽくなってつきまとわれていた。
・リヴァイとつき合いはじめ、リヴァイのオーラにビビったのか、元カレは夢主の前から姿を現さなくなった。
つき合って初めての夏。夏季休暇を揃えて取ったふたりは、田舎の夢主の実家に行くために新幹線のターミナルへ向かう。地下鉄からターミナルに行くすがら、夢主が乗り換えアプリを見て「8番出口から出ると一番近いみたい」と言う。
スタバで冷たいもの買おうね、なんて話していると8番出口の標識が見える。この先にはターミナルのある地上に出るための階段が見えてくるはず……しかし歩けど歩けど同じ地下鉄の通路が続く。さっきは「8番出口」とあった標識は「0番出口」になっていた。それにふたり以外、誰も人がいない。
「迷っちまったか」
「アプリ開いてみる」
スマホを開いたとたん、電源が落ちる。
「妙だな」
リヴァイはふと壁のポスターを見る。恋人同士が仲良く手を繋いでいるイラストが描かれていた。「婚活アプリはマッチ・トゥー・ラブで!」とかなんとか書いてある。
なんとなくそれを見ながら、リヴァイはスマホをズボンのポケットにしまい、夢主と手を繋いで歩き始めた。
0番出口の標識は、1番出口になっていた。
すると今度は通路の端に鳥籠がつられていた。中にはインコが二羽入っていて、キスをしている。リヴァイは「まさかな」と思いながらも夢主にキスをする。
「急にどうしたの?」
と言いつつも嬉しい夢主。
それから進んでいくと標識は2番出口になっていた。
次々と目の前に現れる不思議な現象をなぞると、8番出口に向かって出られるのかもしれない。
【以下使っても使わなくても大丈夫!なしょうもないラキスケ?アイデア↓】
・唐突に表れるクマの着ぐるみ二体がハグをしている→ふたりもハグをする
・急に電気が落ちて真っ暗になる→ふたりもハグをする
・地下通路の真ん中におっぱいマウスが落ちている→リヴァイが夢主のおっぱいをぱふぱふする
・地下通路の真ん中に乳牛がのっしのっしと歩いている→リヴァイが夢主のおっぱいをもみもみする
※この辺↑は書いても書かなくても全然大丈夫です。
「ふたりは次々と訪れるミッションをクリアしていった」みたいな一文でスルーしてもいいかと思います。
そして裸のマネキンが置いてある。さすがに彼女を裸にするわけにはいかないので、リヴァイが俺が……と着ていたTシャツを脱ぐ。
リヴァイだけ上半身裸になって進むと8番出口の標識があった。ついに地上に出られる……!しかし通路の「清掃員室」の扉が開いていることに気づくふたり。中には場に不釣り合いな大きなダブルベッドがひとつ置いてある。
「さすがにここで最後まで致せって無理があるだろうが」
着ていた上着を小脇に抱えながらリヴァイは夢主に振り返る。すると夢主が震えていた。
「どうした? さすがにこんなバカげたことにはつき合ってられねぇ。別の出口を探す……」
「違う、違うの! リヴァイを殺したくない。いやだ、私が悪かったから!」
急に狼狽える夢主に「大丈夫だから、落ち着け」と優しく抱きしめるリヴァイ(優しいね)
少し経ってから夢主が「ベッドの裏側にきっと鉈(ナタ)が隠してる」とつぶやく。
どうして、と思いながらもリヴァイが確認してみると、その通りにナタがあった。黒く変色した血がこびりついている。※ベッドは夢主の部屋に置いてあるものと一致していた。※※変な特徴があってもいいかもしれない(例:小学生の頃から貼ったままのポケモンパンのシールとか……)
「リヴァイのことが好き。大好きだから、あの人、邪魔だったの」
そこでリヴァイは察する。夢主の元カレが急にストーカー行為をやめたこと。夢主は元カレの存在をそのナタで消し去っていたのだった。
「ねぇリヴァイ、外の世界は怖いから。もうどこにも行きたくない。リヴァイとふたりがいい。リヴァイと一緒なら、どこにいても大丈夫だから」
リヴァイはふたたび夢主を抱きしめる。
この摩訶不思議な現象が夢主自身が仕組んだことなのか、彼女にくだった罰なのか。
それともそんな彼女を愛してしまった自分への罰なのか考えながら──みたいな感じでフェードアウト。ホラーは得てして後味が悪くてなんぼってことでおあとがよろしいようで。
write by Licco
ハーメルンのワスレナグサ
plot by りぃ
グリム童話「ハーメルンの笛吹き男」パロ。
リヴァイが笛吹き男、夢主が連れていかれる子供。ただし今回は夢主以外の子らは無事。ただひとり、夢主だけがいなくなってしまうお話。
・前置き?的な設定
田舎街マリアには今日も乾いた風が吹く。街中に響くのは風の音だけ、子供たちの足音代わりに舞うのは茶色い砂塵。
というのも、最近街に悪党(童話でいうところのネズミ)が現れいたるところを占拠してるから。街の人々は困っているものの、どうすることもできない。
あるとき街にひとりの男がやってきた。あてどもなく彷徨っている旅人か、笛を持っているから道化師なのか。リヴァイだと名乗った彼も悪党さながらに人相や口が悪いが、話は通じる男だった。そこで街人たちは、街にはびこっているネズミどもを撃退してくれないかと提案。報酬は出すと。
やがて街からはネズミが消え、活気が戻った。子供たちが駆け回り、笑い声があふれる。しかし街人たちは約束を反故に。リヴァイがあまりにも強く、簡単に悪党どもをこらしめたからワザワザ報酬を払いたくなくなってしまったのだった。
笛吹は静かにいかる。
「だったら、そうだな。てめぇらの大切なものを代わりにいただこう」
持っていた笛を吹けば、蠱惑的な音色が響き渡った。そのままリヴァイは歩いていく。すると子供たちもあとをついていってしまう。大人も音色のせいかぼうっとして動けず、止められない。荒くれ者はいなくなった。でも同時に、子供たちもひとり残らずいなくなってしまった。
・本編
途方に暮れた街人たちはどうにか頼りを出し、子供らを返してくれないかとお願い。しかし返答はない。 そんな現状を知った夢主(さらわれた子供のうちひとり)は、心配になる。みんな家族を失って寂しがっているんだわ、と。子供たちは全員リヴァイの集めたお宝やお菓子に夢中になってるし、つれてこられた屋敷も住み心地はいいので何不自由なく過ごしているけれど。
そこで彼女、リヴァイに子供たちを帰してと言ってみることに。子供たちの中では一番の年長者(年頃の娘)だから、ここは頑張らなくてはいけない。おずおずと打ち明けると、リヴァイは目を細めつつも「ほう……」と相槌を打った。約束をやぶった大人たちへ子供を返してあげてだなんて、言えば怒られるかと思ったけどそんなこともなく。でもその後リヴァイは何も言わない。ただ紅茶をすすっている。どうしようかしら、といたたまれなくなった彼女は次回、自分が紅茶を淹れることを約束。家ではいつも淹れていた。だからきっと気に入ってもらえるわと思ったし、毎回お茶一杯ぶんの時間だけでも交渉できるようになる。何より仲良くなってしまえば、子供らを帰してあげてほしいというお願いも聞いてもらえるだろうと企んでいた。
何日もの間、ゆるやかなお茶の時間が続く。場所はさまざまだった。だれが手入れしているのかもわからないのにいつでも満開な、四季折々の花々が囲むガゼボだったり。危うい紫紺のけむりが漂う寝室だったり。知っているようで知らない調律の、クラシカルな音楽が流れるリヴァイの仕事部屋だったり。どこにいても咲きこぼれる花の香りが満ちていた。
それらはリヴァイの外見とはあまり似つかわしくない。なんとなく気になって、寝室へお茶を届けた今夜、お花がお好きなのですかと聞くと。
「お前だろうが」
「え?」
「お前、花が好きだろう」
そんなこと言ったかしら。彼女は思い返すが、記憶にない。リヴァイ、カップを置き、訝る彼女の想いを見透かすようにしながらも対面に座る彼女の手をすくう。
「違ったか?」
すくったまま。まるで女王陛下に忠誠を誓うみたく鼻先を甲に寄せられ、上目で見つめられると動けなくなってしまった。
「……わたしのために、用意してくださったの」
「俺に用意できねえモンはねえからな」
ぽつりとつぶやくリヴァイの傍ら。あるのは笛。ひとたび吹けばたちまち聴衆を狂わせる音色をもつ笛だ。彼女は瞬間、はっと悟る。──この笛を、盗んでしまえばいいんじゃない?
かたん、と音。立ち上がったリヴァイ。いつの間にか離れていた手。目で追えば、リヴァイはすぐ傍まで来て彼女のことをも立たせたあと頬に触れた。腰を引かれ、抵抗することもできない。というかしたくなくて、頬を染めたままリヴァイを見てしまう。
「これもリヴァイさんのせいなの?」
こんなふうにどきどきしてしまうのは。
「なんでも用意できるあなたに、わたしの気持ちも奪われてしまったの?」
頭ボンヤリ。むせ返るような花の香り。そういえば今夜も妖艶なにおいのお香が漂っている。ぽうっとしているとキス。最初は軽くついばむようなもの、だんだんと激しくなり、足腰に力が入らなくなる。かくんと折れたひざ。支えてくれるリヴァイのたくましい腕。
この夜、彼女はリヴァイの部屋へ泊まった。
そんな日が続いたとある朝、とうとうママに会いたいと泣きだした子が。彼女も可愛がっている、赤毛のポニーテールを揺らす近所の子。リヴァイとの毎日に惚けていたことにはっとし、気を入れ直すと、彼女は「まかせて」とおねえちゃんの顔をした。「絶対、ママのところに帰してあげるから」。
その夜もリヴァイの部屋へ。彼女の狙いは笛。楽器ならできる。盗んだ笛を吹いてリヴァイを狂わせるか、みんなを歩かせて街へ戻らせるか。やればできる、なんてことないはずだと思い、タイミングを窺いながら過ごす。
今夜もリヴァイは優しかった。彼女は一緒に紅茶を飲みつつもこんなふうにリヴァイと過ごせるのは最後かと悲しい。でも意を決したし。すでにリヴァイの紅茶には、眠り薬の代わりになる花の蜜をふんだんに混ぜてあるし。あとには引けなかった。
リヴァイがだんだんと、まばたきの間隔を長くしていく。眠気に襲われているのだろうと考えて彼女も真似をした。するとすぐさま眠たげな彼女に気づいたリヴァイがベッドへ連れていってくれる。甘くて優しいキスを何度かすれば、リヴァイは静かに目を閉じた。
寝顔にはくまがひどい。肌も蒼白いし、不健康そのものだといえた。そっと前髪を撫で、ひたいにキスを落とし。さようなら、リヴァイさん。そうつぶやくと彼女は笛を手にして部屋を出た。
廊下。これでみんなを返してあげられる……!急いで大部屋へと。しかし大きな二枚扉を開けようとしたとき、後ろから手が。そのまま抱きしめられる。彼女の愛した、たくましい腕に。
「ナマエ」
リヴァイの声で呼ばれれば喉がかすれ、小刻みに震えてしまう。手首や甲、指をつうとなぞり下りてきたリヴァイの手が、彼女の手ごと笛を掴む。
「お前……俺を、騙していやがったな」
囁かれたとたん危機感をおぼえリヴァイを突き飛ばした。咄嗟のことに驚くリヴァイ。
今しかない。笛を吹くなら今。作戦がバレてしまったのだから、このあと何をされるかわからないから。彼女は笛に口をつけた。が。
リヴァイは吐息みたいに笑った。笛は吹けた。でも音は鳴らなかった。なぜなら彼にしか吹けない笛なのだった。彼女は焦って何度も挑戦するけれど徒労に終わる。リヴァイもうすでに腕を組み、悠長な雰囲気で壁に背をもたれている。彼女の目に諦めの涙。
「ったく。躾もせずに甘やかしてりゃすぐコレだ。……なあ、お前をどうしてやろうな、ナマエ?」
彼はもう笑っていない。お遊びのように軽々しい口調なのに、気配だけはものすごく冷たかった。ごめんなさい、言いたいのに怖くて言えない。伸びてくる手に首をつかまれる(苦しくはない)。
「ああ、そうだ。ガキどもは返してやってもいい」
「ほ、ほんとう……?」
「その代わり──」
的な会話。リヴァイに最後なんて言われたかわからないと私がうれしいです。
その後。子供たちはみんな無事に街へ帰ってきた。怪我もなく。さらわれた記憶もなく(大人たちも記憶ない)。
「あれ?ナマエおねえちゃんは?」
どこかでひとりの子供が言う。赤毛のポニーテールが可愛い女の子。しかし女の子のママは「ナマエ?いやねえ、だぁれそれ」と肩をすくめて笑った。まわりの友人らも。言われてみればナマエなんて名前の人、そもそも知らないかもしれない。
「ううんっ。なんでもない!」
赤毛の女の子も笑い、友達と駆けていく。今日も街は平和だ。ひとつの憂いもなく、正しく穏やかだった。
(どこを削っても増やしても変えても大丈夫です!)
リヴァイが笛吹き男、夢主が連れていかれる子供。ただし今回は夢主以外の子らは無事。ただひとり、夢主だけがいなくなってしまうお話。
・前置き?的な設定
田舎街マリアには今日も乾いた風が吹く。街中に響くのは風の音だけ、子供たちの足音代わりに舞うのは茶色い砂塵。
というのも、最近街に悪党(童話でいうところのネズミ)が現れいたるところを占拠してるから。街の人々は困っているものの、どうすることもできない。
あるとき街にひとりの男がやってきた。あてどもなく彷徨っている旅人か、笛を持っているから道化師なのか。リヴァイだと名乗った彼も悪党さながらに人相や口が悪いが、話は通じる男だった。そこで街人たちは、街にはびこっているネズミどもを撃退してくれないかと提案。報酬は出すと。
やがて街からはネズミが消え、活気が戻った。子供たちが駆け回り、笑い声があふれる。しかし街人たちは約束を反故に。リヴァイがあまりにも強く、簡単に悪党どもをこらしめたからワザワザ報酬を払いたくなくなってしまったのだった。
笛吹は静かにいかる。
「だったら、そうだな。てめぇらの大切なものを代わりにいただこう」
持っていた笛を吹けば、蠱惑的な音色が響き渡った。そのままリヴァイは歩いていく。すると子供たちもあとをついていってしまう。大人も音色のせいかぼうっとして動けず、止められない。荒くれ者はいなくなった。でも同時に、子供たちもひとり残らずいなくなってしまった。
・本編
途方に暮れた街人たちはどうにか頼りを出し、子供らを返してくれないかとお願い。しかし返答はない。 そんな現状を知った夢主(さらわれた子供のうちひとり)は、心配になる。みんな家族を失って寂しがっているんだわ、と。子供たちは全員リヴァイの集めたお宝やお菓子に夢中になってるし、つれてこられた屋敷も住み心地はいいので何不自由なく過ごしているけれど。
そこで彼女、リヴァイに子供たちを帰してと言ってみることに。子供たちの中では一番の年長者(年頃の娘)だから、ここは頑張らなくてはいけない。おずおずと打ち明けると、リヴァイは目を細めつつも「ほう……」と相槌を打った。約束をやぶった大人たちへ子供を返してあげてだなんて、言えば怒られるかと思ったけどそんなこともなく。でもその後リヴァイは何も言わない。ただ紅茶をすすっている。どうしようかしら、といたたまれなくなった彼女は次回、自分が紅茶を淹れることを約束。家ではいつも淹れていた。だからきっと気に入ってもらえるわと思ったし、毎回お茶一杯ぶんの時間だけでも交渉できるようになる。何より仲良くなってしまえば、子供らを帰してあげてほしいというお願いも聞いてもらえるだろうと企んでいた。
何日もの間、ゆるやかなお茶の時間が続く。場所はさまざまだった。だれが手入れしているのかもわからないのにいつでも満開な、四季折々の花々が囲むガゼボだったり。危うい紫紺のけむりが漂う寝室だったり。知っているようで知らない調律の、クラシカルな音楽が流れるリヴァイの仕事部屋だったり。どこにいても咲きこぼれる花の香りが満ちていた。
それらはリヴァイの外見とはあまり似つかわしくない。なんとなく気になって、寝室へお茶を届けた今夜、お花がお好きなのですかと聞くと。
「お前だろうが」
「え?」
「お前、花が好きだろう」
そんなこと言ったかしら。彼女は思い返すが、記憶にない。リヴァイ、カップを置き、訝る彼女の想いを見透かすようにしながらも対面に座る彼女の手をすくう。
「違ったか?」
すくったまま。まるで女王陛下に忠誠を誓うみたく鼻先を甲に寄せられ、上目で見つめられると動けなくなってしまった。
「……わたしのために、用意してくださったの」
「俺に用意できねえモンはねえからな」
ぽつりとつぶやくリヴァイの傍ら。あるのは笛。ひとたび吹けばたちまち聴衆を狂わせる音色をもつ笛だ。彼女は瞬間、はっと悟る。──この笛を、盗んでしまえばいいんじゃない?
かたん、と音。立ち上がったリヴァイ。いつの間にか離れていた手。目で追えば、リヴァイはすぐ傍まで来て彼女のことをも立たせたあと頬に触れた。腰を引かれ、抵抗することもできない。というかしたくなくて、頬を染めたままリヴァイを見てしまう。
「これもリヴァイさんのせいなの?」
こんなふうにどきどきしてしまうのは。
「なんでも用意できるあなたに、わたしの気持ちも奪われてしまったの?」
頭ボンヤリ。むせ返るような花の香り。そういえば今夜も妖艶なにおいのお香が漂っている。ぽうっとしているとキス。最初は軽くついばむようなもの、だんだんと激しくなり、足腰に力が入らなくなる。かくんと折れたひざ。支えてくれるリヴァイのたくましい腕。
この夜、彼女はリヴァイの部屋へ泊まった。
そんな日が続いたとある朝、とうとうママに会いたいと泣きだした子が。彼女も可愛がっている、赤毛のポニーテールを揺らす近所の子。リヴァイとの毎日に惚けていたことにはっとし、気を入れ直すと、彼女は「まかせて」とおねえちゃんの顔をした。「絶対、ママのところに帰してあげるから」。
その夜もリヴァイの部屋へ。彼女の狙いは笛。楽器ならできる。盗んだ笛を吹いてリヴァイを狂わせるか、みんなを歩かせて街へ戻らせるか。やればできる、なんてことないはずだと思い、タイミングを窺いながら過ごす。
今夜もリヴァイは優しかった。彼女は一緒に紅茶を飲みつつもこんなふうにリヴァイと過ごせるのは最後かと悲しい。でも意を決したし。すでにリヴァイの紅茶には、眠り薬の代わりになる花の蜜をふんだんに混ぜてあるし。あとには引けなかった。
リヴァイがだんだんと、まばたきの間隔を長くしていく。眠気に襲われているのだろうと考えて彼女も真似をした。するとすぐさま眠たげな彼女に気づいたリヴァイがベッドへ連れていってくれる。甘くて優しいキスを何度かすれば、リヴァイは静かに目を閉じた。
寝顔にはくまがひどい。肌も蒼白いし、不健康そのものだといえた。そっと前髪を撫で、ひたいにキスを落とし。さようなら、リヴァイさん。そうつぶやくと彼女は笛を手にして部屋を出た。
廊下。これでみんなを返してあげられる……!急いで大部屋へと。しかし大きな二枚扉を開けようとしたとき、後ろから手が。そのまま抱きしめられる。彼女の愛した、たくましい腕に。
「ナマエ」
リヴァイの声で呼ばれれば喉がかすれ、小刻みに震えてしまう。手首や甲、指をつうとなぞり下りてきたリヴァイの手が、彼女の手ごと笛を掴む。
「お前……俺を、騙していやがったな」
囁かれたとたん危機感をおぼえリヴァイを突き飛ばした。咄嗟のことに驚くリヴァイ。
今しかない。笛を吹くなら今。作戦がバレてしまったのだから、このあと何をされるかわからないから。彼女は笛に口をつけた。が。
リヴァイは吐息みたいに笑った。笛は吹けた。でも音は鳴らなかった。なぜなら彼にしか吹けない笛なのだった。彼女は焦って何度も挑戦するけれど徒労に終わる。リヴァイもうすでに腕を組み、悠長な雰囲気で壁に背をもたれている。彼女の目に諦めの涙。
「ったく。躾もせずに甘やかしてりゃすぐコレだ。……なあ、お前をどうしてやろうな、ナマエ?」
彼はもう笑っていない。お遊びのように軽々しい口調なのに、気配だけはものすごく冷たかった。ごめんなさい、言いたいのに怖くて言えない。伸びてくる手に首をつかまれる(苦しくはない)。
「ああ、そうだ。ガキどもは返してやってもいい」
「ほ、ほんとう……?」
「その代わり──」
的な会話。リヴァイに最後なんて言われたかわからないと私がうれしいです。
その後。子供たちはみんな無事に街へ帰ってきた。怪我もなく。さらわれた記憶もなく(大人たちも記憶ない)。
「あれ?ナマエおねえちゃんは?」
どこかでひとりの子供が言う。赤毛のポニーテールが可愛い女の子。しかし女の子のママは「ナマエ?いやねえ、だぁれそれ」と肩をすくめて笑った。まわりの友人らも。言われてみればナマエなんて名前の人、そもそも知らないかもしれない。
「ううんっ。なんでもない!」
赤毛の女の子も笑い、友達と駆けていく。今日も街は平和だ。ひとつの憂いもなく、正しく穏やかだった。
(どこを削っても増やしても変えても大丈夫です!)