小説 | ナノ


ストローが大好きだ。
グラスに口を付けて上辺の水分をごくごく飲むと言うのに品を感じない、と捻くれているわけではない。ただ達磨落としも下から落とすのが一興ではないか。水分だってストローで下から飲んだ方が……いやまあ水分の集合体に上も下も関係のないような気がするが。
ともかく私はストローが好きなのだ。
これからはストロー愛好者だと豪語し、制服のいたるところに、むしろ素肌にストローを貼り付け万が一に備えて常備しておく必要がある。
なぜこんなことを言っているのか。少し時間をさかのぼらなくてはならない。
うららかな日差しの中のことであ「ねえ、そのかたっくるしい馬鹿みたいな語りはいつまで続くの」る。私が残りわずかなペットボトルの中のアセロラジュースを傾け顎をのけぞらせ「ねえ名前ってば」嚥下しようとした瞬間、悲劇は起こった。私の白く長い美しい喉は飲み物を通すに丁度いい軌道を描いた。しかしながらアセロラジュースは私の喉を通ることなく、舌先でその味を楽しんだ後、爆発し、それから上を向いた私の顔めがけて赤い汁が降り注いだ。

「こんな感じにね」
「うわっやめろイルミてめえ!」

ぶしゅうと私めがけて飛んでくる水道水鉄砲はイルミの親指が蛇口を塞いだことによってできる。
なぜ私が蛇口付近に居るかというとアセロラジュースを被ったからである。洗い流しに来たのだ。イルミは面白そうだからと付いてきて、私で遊んでこうして「面白そう」を創作している。

「もとはといえばてめえの可愛い弟の仕業だかんな!あとで泣かすって言っとけよ」
「キルはああいう悪戯が好きだから大目に見てやってよ」
「ちゅーしてくれたら許す」
「え?俺が?嫌だよ」
「てめえじゃねえよキルアちゃんだよ」

そうである。私にアセロラジュースを噴射したのはキ「名前が自分で吹いたんだろ」ルアちゃんである。こともあろうかのけぞった私の喉を擽ったのだ覚えてろよ。そして私はふごふぅ!と乙女あるまじき奇声を発しジュースを噴射した。降りかかってきた赤い汁はレモン何個分だか知らないがすさまじい量のビタミンCを含んでいるだけあって、しみた。

「ごめんね名前さん」

水飲み場にひょこりと顔を出してキルアちゃんが言う。

「いいよ。私がストローを使わなかったせいもある文明の進化を遂げ瓶の底でも喉を顎を傾けずに優雅に飲み物をすすれるストローさんを使わなかった私の愚行の結晶がまさにいまというかなんというか」

私は笑う。キルアちゃんは笑ってくれなかった。ちょっと引いてる。

「兄貴が女といるとこって珍しいからどんなかと思えばこんなんだった」
「カルトくんといいイルミといい君ら兄弟は私をなんだと思っているのだか」

アセロラジュースとそれを洗い落としてさらにイルミの蛇口水鉄砲攻撃を受けたせいで水も滴るいい女になった。そんなところで、これから屋上で日干しに行こうと思う。パンツまでぐっしょりなんだが。

「名前今度うちに遊びにこいよ」
「おいおいキルアちゃん私一応先輩なんだけど」
「名前は馬鹿だからうちに入れないよ」
「そのゾルディック家ルールがいまいちよくわからんのだけれども。むしろお前らみたいなのがあと数人いるんだろ。嫌だわ。行きたくないわ」

ゾルディック家こわいこわいと言っていたらキルアちゃんは何かがはずれたように「アルカは天使なんだ」「アルカは可愛いんだ俺らと違って」とかアルカアルカいいだしたので私はますますゾルディック家がわからなく、怖くなった。いや、カルトくんは、可愛い。


20120614