「テガマルくんはチヒロくんが女の子だって知ってた?」
聞けば返事はないけれども、ふいと視線を外したのでああ知っていたんだなあと思う。なんとなく。女のカンというやつだろうか。なんとなく、わかる。
「ショックだなあ」
仲間はずれだったみたいで。そもそも私も私なのだ。今までの色々を考えるとそう難しくなく、チヒロくんがチヒロちゃんだったなんて、わかっただろうに。なぁんか、なさけないなあ。
「・・・それは、チヒロが女だったからか」
「うー…ん?まあ、ざっくり言えば?んん、どうだろ。まあ、私の心の問題なのね。テガマルくんに当たろうとか思ったわけじゃないから安心して」
ぬるくなった缶コーヒーに手を伸ばせば、テガマルくんの年齢に見合わぬ力を持ち合わせた腕がそれを掴む。ぎゅううと握られた私の手首は一瞬血がとまったかのように静かになって、そうして彼の顔を見ればいつものように眉をギリリと釣りあげ口元をぎゅっと、結んでいた。
「痛いよ」
「それは俺も同じだ」
「じゃあ、離してくれればいいのに。別に逃げたりしないし」
「好きだ」
「うん?」
「名前がチヒロのことを好きだろうがなんだろうが俺は名前が好きだチヒロにも誰にも渡したくない手放したくない」
それは
「すごい告白だなあ」
「今返事はいらん。いつか名前に俺の隣に一生居たいと言わせてやる」
テガマルくんは多分すごく頑張るんだと思う。私に「一生テガマルくんの隣に居たいよ」と言わせるまで、多分、すごく頑張るんだと思う。だから私はしばらくチヒロちゃんに嫉妬したりその分頑張ってくれるであろう大好きなテガマルくんを見ていようと思う。
20120610