小説 | ナノ


ギラついた瞳が彼にそっくりだった。

(彼って、あれ、誰だっけ)

見たことあんだけどな。あの、目。


今日もこってり絞られて、帰るころには夕陽があかあかと輝いている。前髪センター分けロンゲの先生が夕陽に向かって生徒と一緒に走るのに最適な頃合いに太陽は傾いていて、カラスちゃんがにぎやかに鳴いている。
小等部の制服を着た男の子たちは今、はやりのカードを掲げながら元気に走っている。私のもあんな時代が・・・いや・・・なかったな。もっぱらヒソカと共にクロロの靴にミミズを詰めたりしてた。陰湿なイジメが好きな子供だった。クロロごめん。
カードを持ったガキンチョ集団の後ろをしゃなりしゃなりと歩いている女の子、いや、制服がズボンだ、男の子だった、がいる。口元のほくろが小学生男子からはありえん色気が出てる。うっかり話しかけてみた。

「君もあのカード欲しいの?」
「・・・だれ」
「私?私は苗字名前。これ、おんなじ制服なのね。私は高等部」
「僕はカルト」
「礼儀正しいな。最近の小学生ナメとったわ。てっきりウゼェババァとか言われると思ってた」
「しらない人についてっちゃいけないって言われてるけど名前さんは馬鹿そうだから大丈夫だよね」
「・・・そのふてぶてしさにも覚えがあるんだが、それよりも君は何かね、あのカードが欲しいんか?え?」
「・・・・・・別に欲しくないけど。お金もないし」
「え!最近の小学生はお金めっちゃ持ってると思ってた」
「うちそういうの厳しいから。欲しいものはお母様に言ってから買ってもらう」
「ギエエエ!マジか!すげえ!周りにそういうのいないわ!すげえ!私も小等部のころはお小遣い月300円だったから雑誌も買えんかったわ。爆竹買ってクロロが一生懸命作った秘密基地に投げ込んだりしてた」
「名前さんって見た目通りだよね」
「惚れたか」
「お小遣いで爆竹買う女にはどうしたって惚れないよ」
「ミステリアスな女の魅力がわからんとは・・・カルトくんはまだまだ子供でちゅね」
「ミステリアスじゃなくてデンジャラスの間違いでは」

なんだって!
辺りも暗くなってっきたし話も乗ってきたのでマックにでも行く?と聞けば目をキラキラさせて、さらに手足をもじもじさせながら「ファーストフードとか行ったことない」とか可愛いことを言うので連行した。拉致ではない。

「これ、メニューね。好きなもん頼んでいいよ」
「本当?」
「私は給料入りたてなリッチ女なうだからな、なんでも頼んでくれHAHAHA」

じゃあ、これ、と指をさしたのはみょうちくりんなトイがついてる、お子様セットだった。可愛い趣味してやがる。どこまで可愛いんだこいつは。思いのほか安上がりで済んだので私は奮発してカフェオレ(いつもはコーラ。安いから)と魚のフライが挟まってるサンドウィッチを頼んで席に着いた。

「どうだい初めてのハッピーセットは」
「変な味がする」
「マジか。どれ」

ひとくち貰ったけどまあ普通のチーズバーガーだった。ボンボンめ。

「それがこいつの普通の味なのよ。慣れれば普通に食べれるしね。私のも一口あげるよ。はい、あ〜ん」
「むぐ。こっちのほうが美味しい」
「じゃあ交換しよっか、ほれ」

そんなこんなでもう8時を回ってしまって最後にコンビニに寄ってカードをパックで1つ買ってあげた。カルトくんはコンビニにもあまり来ないらしいのでうまい棒も買ってあげた。

「いいの?」
「だから、まあ、給料入りたてだから、だいじょぶ」
「うちの学校アルバイト禁止だよね」
「バイトじゃないんだ。使用済みのパンツをネットでおっさんとかに売ったりしてるだけ」
「・・・・」
「大丈夫だよ!ハンドルネームっつーの?名前も変えてるし顔写真もイルミの使ってるし」
「え?」
「・・・え?!」

カルトくんが私の斜め後ろを見て固まったので振り向いたら、魔王が立っていた。

「イイイイイイイイルミ!」
「弟の帰りが遅いからGPS辿ってきたらまさか名前に拉致られてるなんてね」
「カルトくんイルミの弟かよ!マジかよ!やべえのに手を出してしまった」
「それよりもっとやばいことあるよね地面に顔くっつけながら俺に謝らないといけないことあるよね名前」

カルトくんのギラついた目はイルミにそっくりだったのでした。


20120604