小説 | ナノ



「すごい」

「それは何に対して?」

にこりと笑うピエロ。勿論この街並みに対してだが、此処まで運んできたヒソカさんもすごい。私を担いで新幹線のように次々と街を森を飛び越えて駆け抜けた。それがここでの普通なのかは分からないけれど。
そして私は薄々気付きつつある。此処は多分私のいた世界ではない。だって私のいた世界ではきっとヒソカさんみたいなとんでもないパワーの「人間」は存在しない。よく漫画である次元を移動した、みたいな何かなのか夢なのか。いかんせん昔のことを覚えていないのでどうして此処に来たのかは分からないが、私はそれを受け入れるしかない。

「ハンター試験って見学とかできるものなんです?」

「さあ、どうだろう」

「とりあえず行ってみて、見学できなかったらその辺のカフェで時間でも潰そうかな」

ヒソカさんは口元だけで笑って見せて「腹ごしらえでもしないか」と言った。それもよかろう。そういえば目が覚めてから何も食べていない。かと言ってお腹が減ってるわけでもないけど。
ヒソカさんが選んで入ったのは定食屋。相変わらず看板の文字は読めなかったけど、風貌とでかでかと描かれている絵で分かった。うわあ、またこのピエロは似合わないところに。だからといってこのピエロに釣り合う飯屋があるのならば見てみたい気もする。入りたくはないけど。
「いらっしぇーい。ご注文は?」そう尋ねる主人に急かされメニューを見るが、やっぱり、ああ、文字が読めない。

「ステーキ定食。弱火でじっくり」

私がうなだれていると、ヒソカさんが昼間からとんでもなくヘヴィなものを頼むものだから、それだけでお腹がいっぱいになりそうだ。うえっぷ。

「それでは、奥の部屋にどうぞ」

わ、私まだ注文してないのに!押し込まれるように入った部屋にはすでにふたり分のステーキ肉が準備されていた。なんでふたり分?なんで個室?ははぁん、もしかしてヒソカさんはこちらのお得意様だったり?


(お腹は減っていなくても結構食べれるものだわ!)


20110914