小説 | ナノ



流川少年にとっての穏やかな日常はゆるゆると時間を重ねていった。
部活ではそれは桜木花道はじめ賑やかなメンバーがそろっているがそれはバスケというノット個人競技を行う上ではしかたのないことだと腹をくくっているし、何より流川はきっとそんなところも含めてバスケが好きなんだと思う。
学生の本分だと謳う者もいる勉学の部分では、彼はとんと怠けていた。授業中は煩わしいと思っていた苗字という少女が話しかけてこなくなったので、それはなにも気にとめていなかったがひどく清々したもので、全て安眠の時間に費やした。
そんなわけで流川楓の日常は穏やかなのである。

「あ」

が、昼休みは増して五月蠅くなる教室を抜け出し、比較的しずかな屋上で昼寝でもしようと最上階のドアを開けた先に見た先客は苗字名前だった。流川は「ああこれは静かに昼寝もできん」などと考えたが苗字は隅でもくもくと弁当を食べるだけであった。彼女は話しかけてくる素振りも見せないので流川は反対の隅に身を倒して目を閉じた。

「楓くん、ごめんね」

弁当を食べ終えた苗字名前は流川にそう言ってみたが、流川は耳にイヤホンをつっこんでいたのでその声も思いも届くことはなかった。苗字という少女はずるい女である。


20120507