小説 | ナノ


「藤真くん、よかったら貰って。ハッピーバレンタイン」

バレンタインという言葉からしてチョコレートが入っているであろう包みを渡してきたクラスメート苗字名前。彼女とは小学校時代からの付き合いだが家が近いわけでもなく、小学校から高校まで何となく一緒で、気が向けばそれなりに他愛ない会話をする、そんな関係だ。だからといって登下校を共にしたこともないし学校以外で会ったこともない、本当に些細な関係であった僕らだがバレンタインチョコを貰ったのは今年が初めてだった、ので、俺は大変に驚いた。

「え、チョコ?」
「そう、今日はバレンタインデーだから」
「だって、おま、今までこんなことなかっただろ」
「驚いてる?」

すこし、と応えれば苗字は嬉しそうに笑った。

「毎年、藤真くんはいっぱい貰ってるからちょっと躊躇したんだけどね、今年で最後だから」
「そうだな」
「藤真くんは大学に行ってもバスケ、続けるの?」
「俺にはそれしかないからな」
「あと、顔」
「テメェ」
「好き、好きだよ、藤真くんがずっと好きだった」

苗字を見ればいままでとなんら変化もなくにこにこと笑っていたので、なにか聞き間違いかとすら思った。好きだよ。俺が?今までそんなそぶり見せなかっただろ。卒業まであとひと月もねえだろ。今更なに言ってんだよ。

「気持ち悪かったら捨ててもいいよ」
「バーカ。食うよ」

デコピンをして、苗字はやめてよーとおでこを擦って、ふたりでへらへら笑って、ああ、幸せかもしれないと思った。
僕たち、私たちは、卒業します。


20120214