小説 | ナノ


流川に捨てるように追い出された苗字はしょうがないのでひとり帰宅することに決めた。ちょっと度が過ぎたかなあなんて考えながらひとりでとぼとぼ歩くがそれは今に始まったことではない。上手く友達を作ることもできないので登下校は決まってひとりとぼとぼコースだ。

(小学校ぶりに友達と帰れると思って楽しみにしてたんだけどなあ。もしかしてやっぱり迷惑だったのかも。はじめて放課後の体育館に行ったけど練習が始まってないのに楓くんのファンの子いっぱいいたし。みんな可愛かったし。迷惑なのかも私)

じわじわと涙が浮かび始めた苗字名前。

(泣いてはいけない。自分ばかりがかわいそうに見えてはいけない。泣きたいのはきっと楓くんの方だ。本当はエロ本なんてどうでもよくて帰りに友達と寄り道とかしたかった。友達と下校途中にファストフードとか、ちょっと夢だった)

そんなことを考えているさなか「お嬢ちゃんお嬢ちゃん」とこんな季節に冬用の黒いロングコートを着たおじさんに声をかけられた。サングラスにマスク、そして黒いロングブーツ。顔は見えない。不審だ。苗字名前は警戒しながら「なんでしょうか」と言っている間におじさんはコートを勢いよく広げた。コートの中には何も身に着けていたなかった。全裸。

「ひぃ!」

俗に言う不審者だ。スタンダードな不審者だ。ひっこみかけていた涙は一気に噴き出しいっぱいいっぱいになった彼女は走った。死に物狂いで走った。

(罰だ。バチが当ったんだ。楓くんにいっぱい迷惑をかけたから、あんな、あんなおじさんの、あんな)

(勃起、してた)

翌日の出席簿で苗字名前の欄には欠席の二文字が書かれた。



苗字さんだって悩むこともある。

20120214