小説 | ナノ


ドーレ港はおそらくハンター試験受験者らしき人で溢れかえっていて、ゴンたちはすぐに見えなくなってしまった。あああ。ゴンたちと別れるんじゃなかった。数分前の私を呪いたい。
ゴンたちはどこに行ってしまったのだろうか。ゴンたちが試験会場について話していたが、そのときはどうでもよくて聞き流していた。知り合いがいないであろう此処で路頭に迷うのはごめんだ。ちゃんと聞いておけばよかった、そもそも別れるんじゃなかったと今になってから後悔する。「あのう、ハンター試験の会場はどちらでしょうか」ちかくの目がイっちゃってるお兄さんに問えば、見かけにもよらずお兄さんは丁寧に教えてくれた。

「ザバン地区、か」

さあ、そこはどこだろうと地図の描かれている看板を見ようとするが、看板にも沢山の人が群がっていた。ううん。あんまり見えないなあ。「はぁいはぁい、ちょぉっとすみませんねえ」人込みをかき分けながらよいしょよいしょと前に出る。ようやく看板が目の前に来たというのに、地図が、地図の字が、

「読めない」

絶望した。
ゴンたちや先ほどのお兄さんとは普通に会話ができていたので言葉は通じるはず。だけど、文字が違うのか。ということは外国、か、はまたは異端的な考えをすると別の世界か別の次元か。どっちにしろ帰る術がないというか帰る場所もわからないというか、なので、ゴンたちとは合流したい。思い出した記憶もあまりにぼんやりとした曖昧なもので私の身元を明かすために頼るというほどのものではない。今度ゴンたちに会ったら自分の名前くらいは自己紹介できるようになりたいなあ。

「ちょっとお嬢さん」

「はい、なんでしょうか」

妙な声音に呼ばれ振り向くと、妙なピエロがにこりと笑った。


(こんにちはピエロ!)

20110908