小説 | ナノ


(下品)

ここのところバスケバスケバスケ、気がつけばボールを触っているし授業中もいいシュートを打つためのいいフォームを、なんてイメトレまがいのことをしている俺はとんでもない夢を見て目を覚ました。妙な解放感と下半身に感じる気持ち悪さ。高校生になってまで夢精して目を覚ますなんて、定期的に自慰でもしておくんだった。適当に着替えてランニングに行くか、と腰をあげるが夢に出てきた苗字名前というクラスメートの淫らな姿は俺を正気にさせなかった。彼女とは仲がいいわけじゃあない。用事がなければとんと話さないようなそんな仲である。彼女の成績は知らないが授業中に当てられても的確に応えるのでわりと優秀だと思う、休み時間は本を読んでいる、溌剌とはしていないがなかなかに模範的な生徒なのではないのだろうか。そんな彼女が俺に全裸で跨り淫靡な表情で俺に、俺の、まあ、その、えっちな夢を見てしまったわけで無意識という意識の中で彼女を犯してしまったわけで、所詮俺も男だったんだなあと感じた。よし、忘れよう。

「いってきます」

そんな夢を見てしまったせいか、俺はもう苗字さんが気になって気になって仕方がなかった。あまり気にしていなかったが袖から覗く腕やスカートからのびる脚は白く華奢で顔立ちもなかなか端正なつくりだ。つるりと綺麗な髪にその顔はとてもよく映えた。脚、腕、顔、髪、うなじ。あー、だめだ、俺、変態っぽい。いつもはきちんと理解できる数式がなんだか急に意味不明なものに変わってしまった、そんな気分でゴツンと机に突っ伏せば牧さんの険しい顔が浮かんだ。授業はちゃんと受けろ、なんて頭の中にまで出てくる牧さん。しかししょうがないものはしようがないのだ。
昼休み、苗字さんは教室に居なかった。あれ、いつも本を読んでいるイメージだったんだけど。しかし彼女の行方を知るすべはない。そもそも俺は苗字さんとこれといって親しい間柄ではないし俺が一方的に気にしているだけだし、しかも不純な動機で。まあいいかと弁当をかっこみ体育館へ行く。ボールを触れば気分が落ち着くというのはなかなか自分もジャンキーだなあと思う。

「え、なんで、え、何、知合い?」

「神さんこそ名前ちゃんと知合いなんスか?」

「いや、クラスメート」

放課後、掃除をしてからすこし遅れて体育館へ行けば信長と苗字さんが親しそうに笑っていたので吃驚した。とても、吃驚した。キャラではないが思わず噛みながら尋ねれば信長から質問で返答された。そうそう、ただのクラスメート。

「あの、私、図書委員で、その、清田くんが本の返却をね、」

「あー、なに、信長、本返してなかったの?」

「あんま読む時間なくて」

「清田くんが借りてる本、続きものでしょう。私が次にそれ、借りたくて。ちょっと図書委員の職権乱用、みたいな。ごめんね」

「いーっすよ別に。俺が悪いんだし。こうして名前ちゃんがわざわざ来てくれたし」

「苗字さん、こいつと仲いいの?」

「清田くん、けっこう図書室来てくれてね。で、けっこう話しかけてくれる」

「入学してからすぐに校内見学みたいなのあったじゃないスか。それで図書室のオネーサンが美人なのチェックしてたんス」

「へぇ。苗字さん、信長からなに借りるの?」

「スレイヤーズ」

「……へぇ」

「じゃあ、あの、清田くん、と、神くん、部活がんばってね」

バイバイ、と控え目に手を振り本を大切に抱えながら体育館を去っていく苗字さん。まさか信長とパイプがあったなんて。しかも信長が入学してすぐからの。信長よりあとに苗字さんの魅力に気付くなんて。なんか少しへこんだっていうかなんていうか、あー、俺ほんとバスケ一本だったんだなあって実感したというか、いや、いいんだけど。そのせいで夢精したけど。

「衣替えしてから気付いたんスけど、名前ちゃんってけっこうおっぱいありますよね。ねえ、そう思いません神さん」

「お前ね、そういうとこばっか見てんなよ」

「俺、たまに神さんが本当に神様かなんかに思える時ありますよ。欲望がバスケしかなさそうで」

「バカ言うなよ。俺だって腹は減るし眠くなるし」

夢精はするしオナニーもするしセックスしたい時だってある。これは信長に言わなくてもいいことか。

「牧さんが来る前に着替えてくるわ」

それにしても苗字さん、スレイヤーズか。いや、信長がスレイヤーズか。そんなことを考えながら寝たもんだから、夢にはぴっちりむっちりの苗字さんが出てきて着衣セックスをした夢を見た。昨日の今日で流石に夢精することはなかったが目がさめれば罪悪感でいっぱいだった。

「じ、神くん」

朝練を終えて席につけば苗字さんが控え目に話しかけてきた。う、わ。俺は席についていて苗字さんは俺の机のわきに立っているので必然的に俺が彼女を見上げるアングルになるのだが、確か一昨日の夢では騎乗位でセックスをしていたのでまるでこんな目線なわけだ。あごから首へのすらりとしたラインを貪るように何度もぢゅうぢゅうと吸った。夢で。しかし俺は「なぁに」とこのどぎついピンク色の妄想のカケラを1ミリも見せずに対応した、と、思う。

「あの、あのね、これ、清田くんに渡してくれないかな」

「・・・栞?」

「昨日清田くんから借りた本に挟まってたの。多分清田くんのだと思って」

「自分で渡せばいいんじゃない」

つめたく当ってしまっただろうか。しかしそれはしょうがない。信長への嫉妬だ。仕方がない。苗字さん、その清田くんは貴方のおっぱいばかり気にしてますよ顔だけですよ、かくいう俺もそのひとりで、だけどね、俺の方が苗字さんのおっぱいも顔も大好きで独り占めしたいんですよそのはにかみ笑顔もちょっときょどきょどしちゃう口調もおっぱいのオプションとしては上出来すぎるくらいに愛らしいんだつまり苗字さん君を愛している。そんなことを頭の中でぐちゃぐちゃに考えたりほどいたりかみ砕いたり飲み込んだりしていたら彼女はそっと僕の右手に栞を握らせ両手でぎゅうう、と握って「おねがいね」と可愛らしいを染めて笑った。今までバスケバスケバスケだった俺の人生にはとても刺激の強いスキンシップで、いや、夢ではもっと刺激の強いあれやこれやをしていたわけだがまあそれは夢だから。あー、かわい。

「購買のパンとか、ご馳走するから。お願いね」

購買のパンよりも交尾をしたいパンパンしたい、なんてことは思っても言えない。ここは素直にありがとうと言って手を振った。彼女は自分の席についてしまったが俺はまたしばらく彼女について悶々とする皹が続くのだろう。思春期とは、つらい。


20120212