小説 | ナノ


「あれ、名前さん」

呼ばれた先へ振り返れば、懐かしい顔がこちらを見ていた。

「工藤先生。これは、お久しぶりです」
「名前さんが卒業してからだから、何年ぶりかな」
「4年ですかね。年が経つのは早いものです。工藤先生は今も未だカウンセリングを?」
「名前さんが卒業してから別の学校に移ったんだけどまだやってる。天職だと思っているよ」
「それはそれは」
「立ち話もなんだし、どう。その辺のカフェでお茶でもしながらゆっくり話さない?」

カフェでお茶っていう時間でもないよなあ、と改めて腕時計で時間を確認する。今日はもうこのまま直帰して冷凍庫に保存してある白米を解凍して今朝の残りのお味噌汁を温めて昼休みに買ったお惣菜を食べようと、ゆっくりお風呂に入って夜の連続ドラマを見ようと思っていたんだった。

「なにか予定でもあったなら、またの機会に」
「いえ、一等特別な用事ではないのですが夕飯が恋しくて」
「それじゃあどこかご飯を食べれるところにでも」
「援助交際に見えませんかね」

工藤先生はきっちりとスーツを纏っていたが私は生憎そのようなものを日ごろから着こなす職種ではなかった。黒地に猫のイラストがびっしりプリントされたワンピースに12cmの細いヒールが心もとないパンプス。4年という月日は長いもので工藤先生はその美貌を保ったままアダルティに年を重ねていた。私はあいかわらず工藤先生にてんで見合わないみてくれで、援助交際にでも見られて職務質問なんてされたらどうしようかと思ったりするものだ。

「そんな風に見えるやつがいたらとんだ妄想癖だって拍手でもしてあげるよ」





「あれあれぇ、そこに見えるのはもしかして狐、おおっと失礼、工藤先生と名前さんではありませんか。一瞬どこの援交野郎だと思いましたよ」
「ちょ、ちょっと四ツ谷先輩それは失礼ですよ。思っても口に出したら駄目だと思います」

「・・・工藤先生。拳をしまってください。拍手でもしてあげるんじゃなかったんですか」


20120118