小説 | ナノ


私が律とクラスメートだったのは高校1年のときである。律はサバサバしたスポーツ系、というのが私が彼女に対しての第一印象。私はというと毎朝ぐるぐるに髪の毛を巻いて軽くファンデを乗せてくるんとカールさせた睫毛にマスカラをオン、でらでらと光るグロスを唇に塗りつけて登校するようないわゆるちょっとしたギャルだった。クラスで軽く自己紹介した時に「こいつとは仲良くなれねーな」と思ったのは今でも覚えてる。

「田井中さんプリント」
「ご、ごめ!ちょっと待って10分、いや5分!澪ぉ、プリント写させてぇ」
「あと田井中さんだけだからね」

私は律にそう言ってから律の隣の席を引いて腰掛けた。律が澪のプリントを写しているのをじっと見て時間を潰す。うっわ!へったくそな字ィ!急いでいるからなのか元からきったねえのかはわからないけれどもそれは中学時代のクラスメートの男子を思い出した。名前思い出せねえけどあいつだ、あいつの字にちょう似てる。

「名前、眉間にしわ寄ってるぞ」
「あ、秋山さん、ごめん思ったよりも田井中さんの字が汚すぎた」
「それは…もとからなんだ」

律はしくしくと悲しむふりをしながら私と澪の会話に耳を立てそれでもプリントの空欄を埋める手を緩めなかった。

「おーわったぞーいっ」
「サンキュ。ふたりは部活だっけ、がんばって」
「名前は部活やってなかったっけ」
「うん帰宅部。駅前のファミレスでバイトしてるから遊びに来てよ。ドリンクバー無料券あげるから」
「やっだ名前ふとっぱらぁ」
「ありがとうな」

そもそも私はこんな外見であったために望んでもいないのに浅く広くの交友関係を築いていた。バイト先の人とは必然的に狭く深くなってしまうのだが、学校でそれがないのは少しさみしかった。クラスで話す人はいる。便所に行きたいときは周りの子についていく。お弁当はミュージックプレーヤーと一緒。移動教室はひとり。寂しかった。そんな私が田井中さんを律と呼び秋山さんを澪と呼ぶ日がくる。じわりじわりと、濃く深く鮮やかになっていく、目には見えないパラメータ。それは私の学生生活での革命だった。

「それじゃあ最後の曲です」

3年間、私は律と澪のライブには毎回駆けつけた。バイトを休んで、シフトが既に出てる時は誰かに変わってもらって、毎回、駆けつけた。それが今回最後になるのかもしれない。今日が最後の登校日である。放課後ティータイムは3年2組で早朝からライブをするらしい。いや、している。現在進行形である。そしてこれが最後の曲であるらしい。私は4月から律も澪もいない私立の大学に進む。それでもきっと、なんとか、生きていけるだろう。



20111220