小説 | ナノ


前に風呂に入ったのはいつだったか。川や湖で水浴び程度には清潔を保つものの流石に温い湯にゆったり浸かりたいし、イイ匂いのシャンプーで頭を洗ってイイ匂いのトリートメントでゆっくりヘアパックして、ああ、この前買った器具で頭皮マッサージもしたい。欲を言えば風呂にミルクの入浴剤をぶちまけたいものだ。私の唯一の長所といってもいい黒く長く艶艶とした髪の毛はパサパサと渇き天使の輪なんてはじめから存在しなかったように萎びていた。

「それにひきかえ、カイトさんときたら」

「あー?どうした」

世の中の理不尽というものはどうやら解消されないようだ。
カイトさんの毛髪は出会った頃からの変わらないふわふわのクリーム色に程よい艶が乗っていて……むきいいいいっ!

「私ちょっと綺麗になってくるんで」

「はあ?」

「3、4…いや、5時間で戻りますから」

「なに言ってんだお前」

「カイトさんにはわかりませんよ!とにかく!行ってきますから!」

うわーなんだあいつ阿呆でー、という顔をしていたカイトさんを尻目に私は街に向かって全速力で駆けた。



20111013