小説 | ナノ


目を覚ますとそこは、ええと、どこだ。
木張りの板になんだか足元がふらつく。あたりを見回せばどうやらどこかの一室らしく薄暗い。私以外の人は見えないが、外、つまりこの部屋の外部がなにやら騒々しい。
様子を見にドアを開けたはいいが風が激しく水しぶきが酷い。この揺れといい舐めとった水しぶきの塩味といい、なるほど、どうやらここは海の上の船の中か。慣れてきた視界に入ってきたのは海に落ちそうになっている男とそれを掴んだ少年をさらにその他大勢が掴んで引き寄せているところだった。こんな嵐の中なにをやっているんだか。しかし、ここで見て見ぬふりをするほど私は外道ではない。嵐の中、一生懸命足をすすめ最後尾の男の背中をひっぱる、ふりをする。
私のお陰もあってか全員無事に甲板に打ち上げられた。よかった。

「なんという無謀な!!下は激早の潮のうずで人魚さえ溺れるといわれる危険海流だというのに!!」

「オレ達が足をつかまえてなかったらオメェまで海のモクズだぞこのボケ!!」

「そうそう。やんちゃ盛りの子供も限度を知らないとね」

金髪のイケメンと黒いおじさんに続いて黒髪の男の子に一声かけたが、あれれ、お呼びでなかったかしら。三人ともきょとんとしてから次に訝しげな顔をして私を見る。失礼ね。これでも一応さきほど加勢したんだから。

「だれだ、オメェ」

黒いおじさんが私に問いかける。あれ。さて、

「私は、誰だろう」


(嵐の出会い)

20110908