小説 | ナノ


なんだか見たことがあるなあと思ってじぃと見つめていれば、ああ、伊角くんかと思いだした。中学のクラスが3年間同じだったが、彼はあまり学校に来なかったので卒業アルバムの集合写真はいつも枠の中だった。それがやたら印象的で何となく顔も名前も覚えていた。私はというとなあなあと都立の高校へ入学したは良いものの特にやりたいこともなかったので大学へは行かず就職活動にいそしみ、その苦労の末に今は社畜と降格した。室長は気難しい人ですこし苦手だけど先輩の相川さんが優しいのでなんとか頑張れている。そんな仕事のおかげで懐かしい伊角くんを見れたわけであるが果たして彼が私のことを覚えているかは怪しい。

「名前ちゃぁん!選手の方にお花を付けるから、」

「はーい」

日中韓18才以下の囲碁大会の主催がどうやらうちの会社のようでさらにその実行委員が我が室長であるために私はこうして休日を返上してスーツを纏っていた。相川さんに呼ばれ、選手団に花をつけるため重い腰をあげた。
中学時代って、そもそも何年前よ。それから何年もたったし化粧も覚えたし髪も伸びた。中学の時から彼、伊角くんが私のことをクラスメートと把握してたのか不明だ。それからこんなに変化してしまった私に気付くか。いや、気付かないだろうなあ。



20111011