小説 | ナノ


(現パロ)

仕事帰り。私は走って駅前のファミレスへ急ぐ。
定時で帰ろうと仕事を詰めたのに、終礼の鐘がなる5分前に「せんぱぁい、これチェックおねがいしまぁす」という可愛くない声と共に書類がデスクに詰まれた。上司への提出締め切りは明日だった。つくづく可愛くない後輩。
上司は帰った。チェックが終わった書類は朝一で出そう。書類を引き出しに閉まったら舌打ちをして走る。
ようやく辿り着いたいつものファミレスに入れば、いつもの席に彼がいる。私がいつだったかボックス席が好きだと彼にこぼしたことがあった。それから彼はいつも、窓際のボックス席であたたかい紅茶を飲みながら、勉強をして私のことを待っていてくれる。

「ごめんクラピカ!仕事長引いちゃって」
「息がきれてる。走って来てくれたのか。怪我はないか?」

優しい彼。クラピカ。有名私立高校の制服はまるで彼のために作られたようにぴったりだった。きっと周りは兄弟とでも思っているのだろうなあ。

「お腹減ったでしょ?なにか食べてた?」
「いや。名前さんを待っていた。お腹減っているだろう」

味の濃いものが食べたいなと笑いながらメニューを開いたその手は陶器のように美しい。清んだ瞳にお人形さんのようなかんばせに透き通るような金の髪の毛。とても綺麗。
5つも離れているそんな彼が私のために時間を作ってくれている事実が嬉しい。

「デザートはいらない?もっと頼んでいいのに。なんならもっといいお店だって…」

クラピカはドリアを、私はパスタを、それからふたりでシーザーサラダをシェアすることにした。育ち盛りの高校生はそれだけで足りるのだろうか。聞けば、「そういうのはいいから」ととても冷たい目をする。その顔も好き。ギャップというのだろうか、きゅぅんと胸の奥が締め付けられるような気がする。ただ、あまりクラピカの機嫌を損ねたりということはしたくなかったので、それからは、高校生活はどうなのかということを聞いた。
クラピカとは一週間に一度しか会えない。
だから、こうしてクラピカの一週間を聞くことがとても幸せ。

「じゃあ、ありがとう。また来週」
「送って行きますよ」

クラピカはいつもそう言ってくれる。言ってくれるが、女の私が送られるべきなのか、高校生を送り届けるのか、どちらが正しいだろうか。天秤にかけて、結局いつも現地解散ということになる。私の頭の中で。クラピカはなんとも言えないような顔をして手を降る。私はいつものようにその手をつかんで、じゃあこれ、今日の分、と2万円握らせる。

「ありがとう、今日もとっても幸せだった」
「だからそういうのは、」

いらないのに。
聞こえてる。いつも聞こえてるよ。でもこうする以外にクラピカと一緒にいる方法がわからない。私はそのまま聞こえないふりをして地下鉄の階段を下る。


20140401