小説 | ナノ


「シャルナークはかっこよくてずるい」

カフェでぽろりと零す。丸いテーブルの向かいに座るのは残念ながらシャルナークではなくパクノダ。でもいいの。パクも好き。

「名前にはもっとイイ男がいると思うけど」

「うん。私に釣り合う男は別にいるけど、私がかっこいいと思うのはシャルだけなの」

ずずーっとお行儀悪く紅茶をすする。ああ、なんでシャルはかっこいいんだろう。頭もよくて強くて、イケメン。

「それより、今回の仕事なんだけど」

「うん。他でもないクロロの頼みだし。パクがこうしてわざわざ会いに来てくれるんだから引き受けるしかないよ」

ありがとうとパクがほほ笑む。なんだか嬉しい。
私の力は本当に微力なものだけど、クロロもパクも私を頼ってくれる。それは私を置いて流星街を去ったことへの罪悪感か。しかし彼らを追って故郷を飛び出た無力な私が悪いのは一目瞭然で、フェイタンなんかは私に会う度ぐちぐちと嫌味を言う。それでも、まあ、フェイタンはたまに優しい。






「クロロ、これ」

「ありがとう、名前」

クロロに手渡したのは小さなデータチップ。こんなもの、彼らは私の手を借りなくても十分、手に入れる力がある。そうでしょう、とクロロに問えば「今回はあまり大事にしたくなかったから」と言った。私はパクから渡されたドレスを纏い、指定された会場に足を運びなんだか豪奢なパーティーに出席した。そこで触れた人の「一番秘密にしたいこと」を盗んできた。好きな人だったり金庫のパスワードだっリ己の罪だったりそれは人それぞれだけど。そういう能力なのだ。それをデータに起こす。クロロに渡したものがそれだ。

「今回の報酬だが、」

「それよりシャルはいないの?姿が見えないんだけど」

「今日は任務で遠出」

「いじわる」

クロロは意地が悪い。私がこのアジトに顔を出すと必ずと言っていいほどシャルはお仕事。私がシャルナークのことを好きだって知っているくせに!

「どうだ。シャルの変わりに俺と食事でも」

「別に、クロロのことは好きよ。かっこいいもの。でも、いじわるだから嫌い」

どっちだよと笑うクロロはやっぱりかっこいい。クロロもかっこいいけどやっぱりシャルが好きなの。だってかっこいい。流星街に居た時からシャルはなんだかそっけないし意地悪だったけどそれでも好きだった。だってやっぱりイケメンだし頭は良いし強いし、なにより一目惚れだったからしょうがない。

「それじゃあ、どこに行こうか」

「フレンチが良い。予約しないと入れない?」

「入れるさ。俺を誰だと思ってるんだ」

「ふふ」

「あれー。団長たちどこ行くんですかぁ?」

ひょこりとシズクが顔を出す。後ろからノブナガとウボォーがやってくる。シズクは後から入った子だからそれほど親しくない、気もする。どうだろ。そもそも私はあんまりここにこないからそう話したりコミュニケーションを取らないからわかんないや。「シズクも行こうよ、ご飯。クロロの奢りだから」そういえばシズクはにこりと笑って喜んだ。あ、好きかも。

「シズク、いい子。好き」

「名前さんは誰にでもそういうこと言っちゃうんですねー」

「そうかも。好きだなあって思ったら言っちゃう。我慢できないの」

ノブナガとウボォーが笑う。そりゃあオメエ子供だなって。それでいいよとふくれればクロロが頭を撫でる。

「あまり虐めるなよ」

「団長は名前に甘過ぎんだよな」

がやがやと外に向かう。結局ご飯は5人で行くことになっちゃったけど、クロロの奢りだし皆で食べた方が美味しいし、うん、いいや。

「あれ、団長たちどこ行くの?」

扉を開ければ、丁度そこにフェイタン、フィンクス、そしてシャルナークが立っていた。ちょうど仕事から帰ってきたのだろうか。

「名前居る珍しいね。どれ、遊んでやろか」

「やだ。フェイタン切ったり刺したりするから嫌い」

久々の本物のシャルに目を向けることもできない。ううう。シャルの生声を聴けただけでも嬉しいのに。フェイタンとの会話で気を紛らわせながら早く行こうとクロロの腕を引く。







「名前さん、シャルのこと好きなんですね」

ガシャン!
シズクの声に思わず私の手からすり抜けるフォークとナイフ。クロロたちはキョトンとした可愛らしい視線をシズクに向ける。

「おめえ、今まで気付かなかったのかよ」

「そういえば、あんまり名前さんと一緒に居ることないんだよね」

そっか。みんな知ってるんだ。
ウェイターがフォークとナイフの変えを持ってくる。

「シャルも気づいてるの?」

シズクのその質問に私の胸は柄にもなくドキンドキンと高鳴った。どうしよう。そういえば、シャルも気づいてるのかもしれない。私、そんなにあからさまだった?でもシズクにもあのノブナガにもましてやウボォーにまで知られてるなんて、そろそろとクロロを見ればふふんと笑った。

「どうだかなぁ。あいつも馬鹿じゃねーし気付いてんじゃねえの?」

「どうしよう!もうシャルと顔合わせられないよ!」

私はテーブルクロスにうなだれた。




20110921