小説 | ナノ


いよいよ寒くなってきた。ブラウスの下のチューブトップが憎い。肩が冷える。なんでロンTを着込まなかったんだろう。あーあ。マフラーでも買おうかな。
下校途中。元気に走りながら私を追い越していく初等部の子達が首に巻いているマフラーが羨ましい。足音は後ろからどんどん近づき、それから私を追い越して、また遠のいていく。それは幾度も繰り返し、私はどれだけの子供達のランドセルを見送っただろうか。
私の歩幅は狭く遅い。寒いと動きたくないってマジマジ、ほんと。
足音がまた近づいてくる。
それは私を追い越さずに途端に断ち切えた。おかしいぞ、と思えば左の手のひらにぬるく柔らかいものが触れる。
(なんだ。)
ゾッとして振り返れば女の子ー艶のあるながい髪の毛の先はぱっつりと切りそろえられ白い陶器のような肌はどこかで見覚えのあるーがこちらを見ていた。目が合い、なんだこの餓鬼とまじまじと見つめていれば少女の頬はみるみるうちに朱に染まった。

「あ、えっとぉ、その、」

少女は歯切れが悪くもぞもぞとなにか言った。
視線は泳いでいるが手はつながれたままだった。私より一回りも小さい手。ぶん、と振り切ればハッとしたように「ごめんなさい。まちがっちゃって」と慌てて走り去っていった。
遠くなるバッグは初等部のものではなかった。私物。ということは中等部か。そんなことを思いながら眺めていた。少女はそのまま夕日に融けて消えてしまうかと思った。
思ったのだが、途中でステーンと転んでしまったので消えなかったわけだ。
あらあらまあまあと見ていたら少女はまたこちらを見るのだ。
なんだ。なんだってーんだ。
私なら生憎だが女子力なんてたかがしれてる分しか持ち合わせていないし絆創膏も持ち合わせてないぞ。



「ありがとう、おねーちゃん」

女子力は持ち合わせていないが並の女子よりは腕力も脚力もあるんだ。舐めんな。
そんなわけで少女をおぶってやってるなう。

「そこの公園までだかんな。膝の血ぃ洗い流したらママに迎えにきてもらえよ」

公園の水道水で血と砂利を洗い流してやったら目をつぶりながら痛くない痛くないと呪文を唱えていた。
よく耐えたね、偉い偉いと言ってカーディガンのポッケに入っていたキャラメルをやれば飛んで跳ねて喜んだ。か、かわいーじゃねえか。

「ママはそろそろくる頃かな」

少女はキャラメルをもきゅもきゅしながら「ママは忙しいからお兄ちゃんが迎えにきてくれるって」と言った。
ふーん。そっかーうおわーあそこに見える男がお兄ちゃんじゃないといいなああああ「アルカ」はい。
はい、きました。
この男はいつもタイミングがいいんです。

「イルミお兄ちゃん!」

ほーらねー!あたり!すごい!

「あれ?名前じゃん。なんか前もこんなことあったような……」

私もちょうどそう思っていたよクソ野郎。

「まあいいや。アルカのことはお礼を言っておくよ」

ありがとうと素直に言ったイルミにますます鳥肌が立った。
凍死。凍死するわコレ。
アルカと呼んだ、恐らく妹の手を引き、帰ろうとしたのにまた踵を返して戻ってきた。なんだおめーさっさと帰れ。シッシッ!

「震えてんじゃん。寒いの?」
「まーな。女子高生たるもの寒さとは常に向き合っていかないといけない上にさっき水を触ったからブエークシュッ!」

くしゃみ。
いつもならここでイルミに叩かれるのだ。汚いって。
ここで、いや、もっと前に気づくべきだった。
こいつ変だ。
え、なに、こいつほんとにイルミ?だってまってこのイルミ(仮)はこともあろうか自分の首に巻いてあったマフラーをほどいてそれから私に巻つけてくる、えっ、ちょ、おま、顔!顔ちけーーーんだよ!やめろ妹の見てる前で!と、思ってたらイルミ(仮)はブッ倒れた。

「イルミーーーーーーーー!?!?!?!?」
「おにいちゃーーーーーん!?!?!?!?」

次回!イルミ風邪編!お楽しみに!


(そんな悠長な。)




20131103