小説 | ナノ


※chapter5ネタバレ有














私の好きな人が死にました。私の好きな人は狛枝凪斗くんといいます。下の名前で呼んだことはありません。だってそんなの恥ずかしすぎるじゃないですかっ!





「こっ、これが狛枝くんのお部屋・・・!」

日向くんはあんまり散らかすなよと言ってから、七海さんと事件に関係していそうなものを探し始めた。
狛枝くんの生前、私は何度もこの部屋のチャイムを鳴らした。狛枝くんは「やあ!希望の象徴である君がゴミクズ同然である僕の部屋をわざわざ訪ねてくれるなんて嬉しいな!希望の象徴である君をこんなゴミクズの生活空間に招く訳にはいかないよね。用事だったらホテルのロビーとかでどうかな?」なんて言われて、結局部屋にあげてくれたことは一度たりともなかったのだ。
私はガラス張りのシャワールームに足を踏み入れる。ここで狛枝くんは衣服を脱いであの白い肌を露和にしてシャワーを浴びたんだろう。本棚を撫でる。図書館でお気に入りの本はこちらに持ってきたのかしらん?ぱらりと捲ってみたけれども、私にはどれも難しくてちょっとよくわからない。それが嬉しいようで悲しい。狛枝くんのベッド。はぁ。狛枝くんのにおいがする。狛枝くんの。狛枝くんのにおい。優しく甘いようでたまに土臭くもあるちょっとスパイシーな、それでいてたまに石鹸のような清潔感も混じった、よくわからない狛枝くんのにおい。
ベッドに埋もれながら日向くんと七海さんを見る。彼らは冷蔵庫の中を執拗に見ていた。ねぇ、そこには何が入っているの。ねぇ、その冷蔵庫は狛枝くんと私とで運んだのよ。ふふふ。初めての共同作業だったの。ふふ。ふふふ。ふふふふふふふふあーっはっはっはははははあははははははははは!・・・あーあ。死にたい。



20131008

(少なくとも私にとって狛枝くん、あなたは希望でした。生きる希望でした。好きでした。)