小説 | ナノ


「ケーキ食べに行こう!」

バーン!というオノマトペを背負ってチュッパチャップスを口に含んだイルミの前に立ちはだかる。パーン!……ぶたれた。

「ごめん喋る虫だと思った」
「残念でした名前です」

今日は4月4日。この日の為に温めていたケーキバイキング無料券をちらつかせると、イルミは表情を変えずにどうしたの?とさして興味もなさげに聞いてくれた。やさしい。いや、これしきのことで優しいと思ってしまう私の中の優しい水準はどうしてしまったのだろうか。ふぅん、きっとこのイルミ・ゾルディックという男と過ごす時間の中でぶっこわれてしまったんだな。

「さて、今日は何の日でしょう!か!」
「は?」
「ぶっぶー!時間切れでぇす。今日は4月4日!オカマの日でーす!なのでイルミとケーキを食べに行きます!」
「ごめん意味がわからないナー」
「ギャーいひゃいいひゃいいひゃいっ」

最近のイルミときたら暴力の度が過ぎる。私はビヨンビヨンに伸ばされ、ようやく解放されたほっぺたをさわさわと撫でる。うひー、痛。

「まあタダでケーキが食べれると思えば行ってあげないこともないけど」
「わーいありがとうイルミ」

イルミはそう言ってひょいと私の手中におさめられていたチケットを取り上げる。

「え?名前も行くの?」
「えっむしろイルミ誰と行く予定なのひとりケーキバイキングとかめちゃ面白いけど行ってきていいけどじゃあ録画してきぅわっ痛っ」

イルミの口の中にいた飴が砕けた。




さて、そんなわけでケーキバイキングに来ました。来たは良いけど、入れません。なぜなら入口の前で震えている男の子がいるからです。私たちはこの男の子を知っています。そう、この男の子は中等部の生徒会長です。生徒会長は何故か仁王立ちで今にも泣きそうな「ねえちょっと邪魔だからどいてくれない?」えっ!イルミそこ声かけちゃうの!?
イルミに小突かれて振り向いた中等部の生徒会長は遠くで見るよりイケメンだった。

「うわっ美少年!きゃわたん!」
「うわーどん引き名前ほんと年下になったら見境ないよねーうわー」
「イルミにドン引かれるとか心外なんですけど」
「あ、あのぅ、もしかしてイルミさんと名前さんですか」
「・・・え、やっだー!私ったら有名人!」
「ショタコンビッチで有名ってどうなの?嬉しいの?」
「ちがうでしょ?え?ねえちがうよね?美人で優しいことで有名な名前さんでしょ?」
「おふたりの噂は高等部生徒会長のクソ、あ、間違ったクロロ……先輩、に聞いておりまして」

クロロ?あの?クロロ?あれクロロって高等部の生徒会長なんだったっけ?っていうか今クソって言わなかったこのイケメン。あれ?知らなかったっていうか興味がなかったっていうか信じたくなかったっていうか、へ、へえ〜。

「クロロって生徒会長だったんだ。知らなかった」

お前もかよ。

「で、なんで中等部の生徒会長ちゃんはケーキバイキング入口で震えてるの?」
「私の名前はクラピカといいます。その高等部の生徒会長あの野郎に誕生日プレゼントとしてここの無料券を頂いたのですが、ここに来る前もそれは億劫な気持ちばかり引き摺り、それは心も重かったのですが先輩の気持ちを無碍にするのにも心が痛み、ようやくたどり着いてはみましたが、いざ女性やアベックばかりの建物の入り口に来てみるとますます入るべきかどうするかと悩み、今はこうして思案していたところなのです」

うっわー!固!さすが生徒会長だわ。固いわ。ガチガチや。クロロとは大違いだな。あ、クロロも生徒会長か。

「しかし、チケットを不意打ちとはいえ頂いてしまったし、ぶっちゃけ不要だったのですが押し返そうとしたらICレコーダーを渡されひとりケーキバイキング実況を録音して来いと言われました」
「へぇえぇ。クロロも後輩いじめたりとかするんだ。普段は俺らに虐められっぱなしなのにねえ。あ、だからか、虐められてる側の思考に似ちゃうのは。名前と考えがほぼ一緒で笑える。ね?」
「ね?じゃねーよ可愛くないよイルミ。まあ後輩できて調子に乗っちゃうタイプなんだねえクロロは」

ふむ、こんなところで立ち話もなんだし

「そうだ!3人でケーキバイキングに行こう!」
「ICレコーダーもあるしクロロの黒歴史でも散々吹き込もうか」
「キャー!それめっちゃ楽しいねうふふ!」




後日、クロロがハゲ散らかしながら怒ってきたのはいうまでもない。


20130409
おくれましたがクラピカハッピーバースデイ