小説 | ナノ


塾から帰る細い道で、灯りを求めるように道路の端に寄っていく身体。街灯の下を、数式で重くなった頭をゆらゆらと縦に横にと振って歩く。ほぅ、と吐く息はカサカサの唇に少しだけぬくもりと水っぽさを与えてから、白く空に消えていく。灯りを見上げれば、私からうまれた白い息たちもくっきりはっきりより白く目に焼き付く。視界の端に、灯りとは違う星が焼けたような赤色がちらちらと過った。そらに漂う赤色はふよふよと漂い、消えた。それは、ひとつ、またひとつと浮かんでは同じ方向に飛んでいった。流れ星とは違う軌道を描ききえるそれを、私はなにかとんでもなく凄いものを見てしまったような気で、それでいて受験に追われたこの頭はとうとう狂ってしまったのかと不安がった。疲れているんだ。早く帰って温かいお風呂にゆっくり浸かってさっさと寝よう、さっさと。視線をコンクリートに戻せば、そこはコンクリートではなく水面のように弛んで、美しい水面に暗い空を映していた。夜空に飾られた星々は水面の上でも煌煌と輝いていた。ここはどこなのだろうか。すくなくとも私の知っている東京ではなかった。水面に目を凝らすと再び赤色が浮かんで飛んでいった。なんなんだこの光は。どこに行こうとしているのだ。光を辿るように視線をずらす。視線をずらせば、そこには、私以外の人間がいた。半裸で。彼は私に気付くと、美しく笑って「折角出会えたのに残念だな」と言った。彼の瞳はあの焼けた星のような赤色だった。それを私はひどく恐ろしいことなのだと思った。気がつけば、私はいつもの東京に足を付けていた。なにがあったんだろうかこの私の身に。竦む足にはっぱをかけて家まで走る。顔に当たる風が冷たくて痛い。喉が焼けるように痛い。乱暴に開けたドアにママがビックリしてる。ママとパパの顔を見たら安心感がぐわっとこみあげてきて涙が出た。幸せだなあ。
















翌日、世界はあの赤色にのみ込まれた。
私はあの少年の瞳を思いだしながら、いきるという行為を終えた。



(終わりの日の前日、オワリの少年を見た)

20121126
Qを見ました