「なんじゃ、お前さん。もうリタイアか」
エレベーターを使い、入ってきた定食屋に戻ると変なじじぃがいちゃもんをつけてきた。が、まあ、しかし私は海より広い心を持ってる名前ちゃんなわけで、いちいちそんなじじぃに突っかかっていかない。だがじじぃ、てめぇ何でハンター試験のことを、
「45番」
しゃがれた声にはっとすると、私の着ているボロのワンピースの胸元には45の数字が書かれたプレート。
「絶望も後悔も反省もなにひとつ見られん。お前さんは一体なにを得るためにこの試験に挑んだ」
「特に何も。そうだなあ、人生で失ったものばかりだったけど……何もない今、これからは得られるものばかりだものねえ」
そうねえ、と私が呟けば、するりと伸びてきたじじぃの指。見える、が、身体が動かない。どくりと一回だけ脈打つ。指はゆっくりと額へ、乗せられ、トン、と軽い音を弾けさせた。
「これが見えるか」
額がカチ割れるんじゃねえかと思うほどのでこぴんを食らわされる。痛い。
「しかし身体がついていかんようじゃの」
ほっほ、と老人特有の笑い声をあげぎょろりと目ん玉をひんむき私を見る。なんなんだこのじじぃは。
「わしがその力、伸ばしてやろう」
(余計なお世話なんですけど)
20110919