小説 | ナノ


外はさんさんと太陽の光が降り注いでいるというのに、この家は気温湿度ついには香りまで何をとっても最高の環境である。そんな場所で私は高校生活の夏休みをエンジョイジョイしていた。

「名前うちでなにしてんの」

さっそく出やがったなコノヤロウ。しかし今日の私はいつもの私とは一味もふた味も違うのだ。

「どう?可愛い?」

ひらりと黒いワンピースに白いエプロンをなびかせながら一回転してみればイルミはげんなりとしやがった。こいつ表情乏しいクセに嫌な顔のレパートリーはけっこう多いんだよな。
ぬっとイルミの手がのびてきたので身構える(殴られると思った)。するとその手は思いのほか高いところで止まり、回った衝撃でずれたヘッドドレスを直してくれた。

「その格好、まさかとは思うけど」
「そのまさかちゃんでーす。夏休みの間ゾルディック家でバイトさせて貰うことになりました!えへ!よろしくね!」
「エクスクラメーションマークうざい」

とうとう殴られた。

「どーーーーーー・・・してもイルミの家に入りたかったのね、そんでイジけてたらカルトくんが拾ってくれて」
「カルトめ、うちはミケがいるから捨てられてる動物は拾ってくるなって言ってあるのに」
「アイアムヒューマン」

そう。ゾルディック家でアルバイトをさせてもらう経緯に至ったのはカルトくんの一声だった。
「そんなにうちに来たいなら来ればいいじゃん」
小さな手に引かれやってきたのはヒソカと一度門前払いを食らった豪邸。あれよあれよという間に門が開いて黒塗りのハイヤーが来て(門から本家まで1キロは軽くあった)メイドと執事がズラっと並んで「お帰りなさいませカルト坊ちゃま」と声をそろえて言った。そこに「これ名前さんね。今日から夏休み期間中は僕専用のメイドだから」と爆弾が投下されたが、かく云う私の心中はといえばどうか皆さん察してくれることと思う。

「てなわけで私カルトくん専用のメイドだから。イルミ坊ちゃんに構ってる時間はないんでございますのよオホホ」
「うちの母親みたいな喋り方しないでくれる?」
「えっイルミのママこんな喋り方なの」
「粗方そんな感じ」

「名前さんこんなとこにいたの。迷ったかと思って迎えに来たよ」
「カルトくん。君のお兄様が私の邪魔ばかりして進めなかった。君のお兄さんはもしかしてエアーマンかウッドマンなのでは」
「普通にヒューマンだけど」

カルトくんの宿題を見るべく、私はカルトくんの部屋に戻ることにする。大丈夫か。自分の宿題すらままなってない私だぞ。小学校の勉強すら怪しいぞ。算数は分数で決別し理科は東西南北の位置すら理解できなかった。社会とか意味がわからない。なんだよ社会って。社が会ってなんだよ。唯一国語ならまあなんとかよっこいせって感じ。
不安になりつつも慣れないロングワンピースを振りまわしながらカルトくんについて行く。

「名前、俺の専属メイドになったらカルトの2倍バイト代出させるよ」
「に、にばい・・・!」
「お兄様、そういう卑怯な手は使わないでください」

二倍、という言葉に目がくらんだが、ぎゅうとスカートの端を握ったカルトくんの小さな手にきゅんとしたのでこの夏はカルトくんの専属メイドでいくことにする。



20120809