小説 | ナノ


このクソ暑い中、放課後いっしょうけんめい歩いてきたのは自宅よりちょっと遠いクラスメートの家。いや、仕事場。ドアノブを回せばあっさり回った。おいおい防犯とか大丈夫かよ。

「ピンポーン。みっきー居るぅ?入るよぉ」

適当に家主に声をかけて部屋に入るとだるるーんとしているみっきーがいた。これが家主。それで私の好きな人で、国民的少女漫画家マドモアゼルゆみこ先生。

「みっきー、そんなぐうたらしてたらファンのマドモアゼルゆみこ像が台無しだよ」

よしよし、と声をかけながら起こせば彼は突然ブワッと涙を噴出(流したのではない。本当に噴出)させて「俺が男っていう時点でファンの期待を大きく裏切っている」と言った。

「締切せまってるんでしょ?手伝いに来たんだよ。ほら、スーパーのだけどお寿司とお茶とお菓子」

来る途中で買ってきた「みっきー締め切り前だけど頑張ろうセット」をちらつかせればへらりと笑ってありがとうとうってくれた。その笑顔が好き。
みっきーの漫画の主人公はすごくかわいい。オヤジ女子高生?は?意味分かんないんだけど…と思っていたときもあったけれども読んでいれば主人公モコ(外見hおっさん…そうだなあ芸人で例えるならケンコバみたいな顔なんだけど目はきゅるるんしていておさげ)の純情で他人思いな部分がきゅんきゅんする。今はもうモコの恋地をひたすら応援している。みっきーは生みの親というのもあるのだろう、そんなモコを溺愛している部分があってモコかわいいモコかわいいとひたすら言っているときがある。ちょっと悔しい。だって私だってみっきー好きだし、私はみっきーと同じ次元に生きているのに!ちょっとは私のことを可愛いって言ってくれてもいいと思う。今日もみっきーの仕事場に行くということでいつもよりスカート一回多く折ってるのに。

「あれ、寿司おおくない?苗字こんな食うの?」
「あ、羽柴兄と増田と藤原もあとで来るって言うから多めに買っておいた」
「へーそうなんだ。メンツ的に人数多くて助かるのかどうなのか不安なところだけど」

はは。漫画だったら「(笑)」みたいな感じで、笑う、お前が好きなんだよ!なんて言えないけど。へーそうなんだ・・・ってちょっとは残念そうにしろよ。ふたりきりじゃないんだ残念、みたいな。ずもも。まあいいですが。脈なしですかそうですか。

「そだね。じゃあ早速やりますかー」
「だな」

それから男女二人きりの空間でとくにやましいこともなく、私はもくもくと消しゴムをかけベタ塗りを続けた。
外が薄っぐらくなってきたなーと思ったら玄関先が騒がしくなってきたのでそろそろかなあとペンを置いた。どうやらみっきーも察したようで「休憩にすっか」と言ったのでそだねと返事をする。
冷蔵庫にしまっておいたお寿司を出している途中で増田が後ろから抱きついてきた。

「名前ちゃーん学校ぶり!夜も可愛いね!」
「ありがと。はいこれ増田の分ね。やすもんだけど」
「名前ちゃんのその愛が嬉しい!」
「これ藤原と羽柴の分。手洗ってから食べてね」
「ばーか名前の愛は平等なんだよ!でもめぐみへの愛はお前らよりちょっと多い!だってこれサビ抜き!」
「藤原はサビ抜きって覚えてたからね。そういうとこだけほんと顔面通り可愛いよねえ」

はーあ。賑やかになってきちゃった。今日もまたみっきーとの距離が縮まることはなかったなあ。残念。・・・まあ、楽しいからいいんだけど。みっきーの方へ振り向けばまた彼はかわいらしく笑っていた。まあ、いっか。


20120728
めぐみのことを藤原って呼ぶ女子可愛いと思いませんかリカとか