小説 | ナノ



髭紳士。試験官のことだけど。どうやらその髭紳士に着いて行けば一次試験クリアらしい。

「無理」

走り始めて数分。30分は経ったんじゃなかろうか。ひ、ふ、と息が漏れる。私は立ち止った。足も痛いしこんなに頑張ったとして得られるものは何か。こんなに疲れまでして欲しいものか。答えは否。私は此処にリタイアを宣言する。
屈伸をすればごきゅごきゅと膝の皿がなる。再び身体を戻せばまたばきりと身体がきしんだ。首を左右に振る。ばき、ばきぃ。

「さて、帰るか」

どこへ?帰る場所もないしゴンにも会えなかった。それでも私はお金があればなんとかなる気がした。私は入ってきたエレベーターを頼りに歩きだす。ごうごうと走る人込みに逆らいながら、おや、懐かしい顔を見る。

「クラピカ!レオリオ!」

「げぇ!なんでテメェがここに…!」

「うん?登録されてたみたいだから挑戦してみたんだけど疲れちゃったから」

逆走(いや、走ってはいないが)していた私は彼らと共に再び群衆の流れに乗る。リタイアする旨を伝えると、そうかと案外にもあっさりとした言葉を返された。まあ、ライバルってことになるんだしそんなもんか。

「ここに来るまでにひとつ収穫があったんだけどさ」

ふふっと笑ってみせればクラピカはさほど興味もなさげに走り続けたがレオリオはおもしろいくらいに食いついてくれた。だから私は「おしえなーい」と言うだけだった。

「今度また会えたら教えてあげる。私の名前!」

じゃあねと手を振り、私はまた群衆の流れに逆らう。ごちゃごちゃと人にまぎれてふたりの姿はすぐに確認できなくなったが、また会えればいいなあとは思った。


(私のハンター試験、終了)


20110919