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「羽柴くんお願い助けて!!!!」

めぐみの友達(?)の苗字さんから連絡があったのは土曜の朝だった。
めぐみの番号から電話がかかってきて、通話ボタンを押せば聞き慣れない声が聞こえた。なにか緊急事態なのかそれともめぐみの悪戯なのか…まあ9割り方後者だとは思うが残りの1割だったらまずいなあということで、場所を教えてもらい苗字さんのマンションの前まで来た。
セキュリティばっちりで指紋認証をしないと入れないシステムになっていたので、インターホンを押すとめぐみが通してくれた。

「うう、あの、ごめんね羽柴くん、ようこそ。散らかってますが」

苗字さんはもじもじとしていて今にも泣きそうで、めぐみも心なしか元気がなくて、え、なにこのふたり喧嘩でもしたのと思いながら苗字さんの家に入ると…玄関先から…すごく…汚部屋だった。めぐみになら「なにこのブタ小屋」とでも罵れるものを、苗字さんとはあまり親しくないし失礼かなと思うけれどもこんな部屋にあまり話したこともない人を呼び出すのも…失礼だけど…失礼だと思うんだよね…

「めぐみこれどういうこと!」
「名前の家であそぼうってなったんだけど予想以上にやばい部屋でなんかもうやばい」
「俺なんで呼び出されたかあらかた予想できるけ敢えて聞くよなんで俺呼ばれたの!?」
「掃除してもらおうと思って」
「政宗先輩とか喜びそうじゃない」
「馬鹿言うな!!!!名前ぶっ殺されるわ!!!!!!」

「羽柴くん、どうぞよろしくお願いします」

おず、とゴミの中から出てきた苗字さんはゴミ袋を差し出してそう言った。
ぶっちゃけめぐみの部屋のゴミ密度に比べると少ないんだけどいかんせん広い。2LDKを3人で掃除、か。

「苗字さんってひとり暮らしなの?」
「うん。そー」
「ごはんとか」
「ごはんはーめぐみん家で食べたり笑華ん家で食べたりーかおりん家で食べたりーファミレスだったりーあっ!だからキッチンはめちゃ綺麗だよ」
「だからキッチンに布団が敷かれてるんだね…」

女子高生がセキュリティ完備2LDKマンションで毎日外食て…この人、金持ちの人か。

「めぐみの部屋といい無駄にいい匂いするのはなんでだろうか」
「あーまあ家でご飯食べることないから生ごみ系はないし飽きた香水とかコスメとか転がってるからねーめぐみの分も」
「マジだ!これめぐみずっと探してた香水〜!こんなところにあったのか!おっこれリカちゃん切り抜きファイルじゃんか」
「去年作りっぱだったから多分その辺にまだ切り抜いてない雑誌転がってるはず」
「探せ探せ〜っ!」

発掘作業してきゃっきゃしてる女子高生はもはや戦力になる気がしない。俺だけでもどうにかしないと…と思っていると奇問が。ブラジャー。めぐみは、まあ、親戚だし、もはや娘みたいなもんだしめぐみのブラジャーはなんとも思わない(ようにしている)けど、赤の他人のブラジャーだぞ。どうする。

「苗字さん、服とかいるものといらないものを分別してくれると嬉しいんだけど」
「嵐士名前に甘くない?めぐみのときはもっとキツかった顔面握られた」
「いくら俺でもほぼ初対面の女の子の顔面握ったりはしないよ」
「常磐津はするよ」

俺とめぐみが言い争ってる間に苗字さんはきょろきょろと見回して「うーん制服以外は全捨てでいっかなー」とか言い出した。金持ちこわい。

「新しいの欲しいし」
「いやでもこれとかは?これとかこれとか?」
「可愛いんだけどめぐみとかぶってるし」
「それめぐみこの前捨てたよ。名前とかぶってるし」
「ほんとぉ?じゃあそれとそれ2着だけとっとく。そっちのは裾よれてるから捨てー」

なんとなくわかってきた。
めぐみの周りには色々な人間がいるけど、めぐみに似た子はいなかった。それは俺が知らないだけで、ここに居たんだな。苗字さんって顔こそ大人しめだけど性格がめぐみ2号みたいだ。類は友を呼んだ感じなのか。
ブラジャーを引きちぎるのはめぐみにまかせた。
全然使っていないらしいキッチンと毎日使っているらしいバスルームが綺麗だったおかげで思っていたよりも早く片付いた。

「3人でやるとけっこう早く片付くもんだねー」
「この部屋に来たときは絶望したけどね嵐士来てくれてよかったまじで」
「苗字さんつかって呼び出すのやめろよめぐみ」
「だってーそうした方が手っとり早いと思った」

「羽柴くん、めぐみも、ありがとうねぇ」

のほほんと笑う苗字さんに、まあ暇だったし、いいか、と思った。

「よーし!明日は服とアクセめっちゃ買うぞー!」
「嵐士は荷物持ちね」

後にめぐみから聞いた話によると、その後あの部屋に政宗先輩が来て徹底的に掃除をしていく仕上げ作業が行われたらしい。


20120721
11巻の掃除話めちゃんこ萌えたので
しかし私は嵐かお派です