小説 | ナノ


※学パロ

いてもたってもいられなくてなんとなく思いのたけをぶつけてみた。

「皆本くん、あのね、好き、なんだけど、その、よかったらお付き合い…」
「ごめん。苗字さんのことあんまりよく知らないし」

玉砕した。
しかしめげないのが私のいいところだ。いや実際めげてる。めげてるけどくらいつくんだ名前!諦めたらそこで試合終了ですよ…安西先生っ!三井の頑張りを忘れたか名前!頑張れ頑張るんだ!

「私のことはこれからし、知ってくれればいいし!皆本くんの好みになれるように頑張るから!皆本くんの好きなタイプは?!」
「うーん。大和撫子って感じのこかな」
「や、大和撫子、ね。おっけ。大丈夫。頑張る」

それから私は全速力で自転車を漕ぎドンキへ向かった。ニュースでかわいいねーちゃんが猛暑だって言ってたのはだてじゃなかった。めっちゃ猛暑。しかも無風。すごい暑い。
汗を垂らしべたべたに髪の毛を顔や首にひっ付けながら入ったドンキは天国かと思うほどに涼しかった。電気ってすごい!エジソンすごい!万歳!
私はなんかよくわからないごった返した店内の雑貨やおかし、それからそれらに群がる人間をかき分けながらえっさほいさと真っ先にヘアカラー剤のもとへ向かい真っ黒のホイップにするやつと散髪用の鋏を持ってレジへ向かった。
マロン色の髪の毛が似合う。と、友達に評判だったので高校に入ってからはずっとこの髪色、たまに毛先をオレンジにすることもあったけどベースのいろはあまりいじらずに過ごしてきた。大人っぽく見えるように前髪は黄金比分けだった。が!しかし!今日この瞬間にしてわたくし名前は大和撫子に七変化なのでございます。いざ!

「ギャアアアアア頭皮しみる」

そんなこんなで私の髪の毛は真っ黒に、そして前髪は日本ドールちゃんのようなぱっつんになりました。上下のつけまつ毛を捨ててブラウンから黒のカラーコンタクトを入れれば……おお、まあ、うん、いんじゃね。

「名前どうしたのそれ」

寝て起きて学校に行けば友達らは一瞬呆けて腹を抱えて笑い転げている。

「好きな人がこういうのが好きなんだって。どう。似合うかしら」

黒髪ぱパッツンストレートに加え、このクソ暑い中セーラー服の上にベストを着るというおしとやか系女子の極みにまで足を突っ込んだ。黒ハイソとか眩しかろう。

「まあ似合わないこともないけど、見た目と中身が伴ってない」

そんな友人にはしっぺでもくらわせておけばいいのだ。それから数日しゃなりしゃなりと過ごしてみたが、皆本くんはこっちを見てくれない。私はこんなに見ているのに。もしかして、私だと、気付いてない、のか・・・?いや、さすがにそこまで変わったわけじゃないだろ。ちょっと昔にはやったおぐねーのデコミラーを鞄から取り出しまじまじと自分の顔を見る。うーん。私ってこんな顔だったっけ。これ、可愛いのか?わからん。しげしげと鏡を見る私を見て友人が「きも」と笑った。うん。私もちょうどそう思ってた。
もうわからないよ。
この姿になってからナンパのひとつもキャッチのひとつもない。もしかして不細工?ブスなの?似合ってない?けっこーイカしてると思ってたんだけど。貴方だけ見つめてるなんてできないよ。だって皆本くんは私のこと見てくれないし…大黒摩季様とはちがうんだよ!
・・・こうむしゃくしゃした時は動くのが一番だよね。

「もしもし、こへ兄?」
「おう!名前どうした!」
「今ひまー?」
「俺に暇な時間なんてあるはずがない!」
「スポッチャ行こうよバスケがしたいです安西先生」
「おー!いいな!行こう行こう!」

こへ兄は近所に住むお兄ちゃんで私より5つ年上。あほだけどなんだかんだでお兄ちゃんお兄ちゃんしてくれる。
駅前に集合ということになったので時間までゆっくり髪の毛を染めることにする。やっぱり、似合わないし。カラコンは安定のブラウン。つけまつげを上にも下にも付けたらしっくりきすぎて自然と笑顔になった。はーっ。好きな人に合わせて尽くすって難しい。できない。世の中のアベックたちはそうやってお互いを尊重して思い合って、すごい。いままでリア充爆発しろとか思っていたけれどもこれからはすこしだけ尊敬していこうと思う。
そもそも皆本くんに惚れた原因は何だったのか。
私はこんなんで親しくなる友達も私に似たようなのが集まってしまったので、ちょっとどぎついグループになってしまった。チーズで例えるならブルーチーズだ。ラップの上からでも触るとにおいが移るやつだ。そんなブルーチーズのような友達と「マックよってこー」「いーねー」なんて廊下で話している最中、私は教室に手帳を忘れたことを思い出した。

「ごめんちょっと手帳忘れた」
「3秒でもどってこいよ」
「それは無理」

ひとり寂しく来た道を辿り、教室に戻ればなんだか私の名前が飛び交っている。なんだ。なんだなんだ。自分の教室だし別に何もやましいことなんかしてないんだからねっ!とか思いつつもこっそりと盗み聞きしていると、男子だけで「学年で可愛い女子」の順位をつけるのに白熱しているようだった。

「苗字はケバいからなし」
「女っつーより男だろありゃ」
「なんか同じ学年のやつら見下してるよな」

ケバ、いのは、うーんまあ目をつむるとして私は男じゃないし、お前らがそんなくだらねー話ばっかしてっから見下すんだろ。同学年の男子なんかカスしかいねえ。そうだなあ。タイプはこへ兄の友達の立花さんみたいに大人でーかっこよくてーやさしい余裕のある人。

「そんなことないよ。苗字さんも話せば普通だし」

そう、言ってくれたのが皆本くんだった。
そこからメキメキ私の中では皆本くんの株が上がった。インフレーションだった。爆発だった。こ、こんなことで。みたいに思われるかもしれないがこんなことで私は馬鹿みたいに皆本くんに恋して髪の毛を染めたのだ。皆本くんが授業で発言すればときめいたし体育の時の体育委員ぶりにときめいたし、そのりりしい横顔にときめいた。もう全てがときめきの起爆スイッチだった。

「こへ兄、おまたせ」
「またそんな脚だして」
「動きに行くんだからいいじゃぁん」

それもそうか。こへ兄は笑った。スーツだった。多分、私を心配して会社から直で来てくれたんだな。ごめん。

「こへ!ゴリラダンクしてゴリラダンク!」
「そんなの朝飯前だ!いけいけどんどーん!」
「キャーかっこいいいいいい!」

こへ兄とスラムダンクごっこをして盛り上がっているところにがちゃりとフェンスが開く。今までは貸し切り状態で使っていたが、まあ他のお客さんも来るよな、と思い、コートの奥の方に移動しようとする、と、そこには見知った顔が。

「おー金吾!ひさしぶり!」
「先輩、お久しぶりです」

皆本くんと、それから加藤と佐武がいた。筋肉トリオめ。なにしにやってきた。これ以上筋肉をつけようものなら税金でも取り立ててやろうか。3人はにこにこしてこへ兄に駆け寄る。

「こへ、こいつらと知り合いなの?」
「ずっとスポ少でいっしょだったからな!名前も知り合いなのか?」
「ただのクラスメートだけど。じゃあもうバスケいい。バッティングしに行こう」

ただでさえクラスメートと同じコートで遊んでも気恥ずかしいのに、皆本くんが、いるし。

「いいなバッティング!得意だぞ!ベッドの上でも!」
「下ネタやめてくださーい」

「あの、苗字さ、ん」

ぐい、と手をひかれ無理に振り向かされる。視線の先に居るのは皆本くん。

「七松先輩。ちょっと苗字さん借りてもいいですか」
「じゃあ私は団蔵と虎若を借りようかな」
「どうぞどうぞ」

こへ兄と来るはずだったバッティングコーナーに皆本くんとふたりきり。くっそなんだってんだ。なんで今日こんなラウワン閑散としてんだ。

「苗字さん」
「・・・なに」
「髪の毛、戻したんだね」
「似合わなかったでしょ。笑ってもいいよ。こっちがあまりにもしっくりきすぎて自分でも笑える」
「俺のことはもう好きじゃない?」
「好きじゃない」
「そっか。俺はさ、苗字さんが髪の毛黒くしてああ俺の為にしてくれたんだなとか化粧が薄くなって俺の為にしてくれたんだなって思ってすごく嬉しかった。それから苗字さんのことすごく気になってずっとみてたよ」
「うそ」
「ほんと」
「だって、私だって、皆本くんのこと見てた。見てたもん」
「気付いてたよ。かわいいなあって、見てた。猪突猛進で頑張り屋で僕の為に可愛くなろうとしてる苗字さんが、好きだよ。ねえ、俺は庶民シュートぐらいしかできないし下ネタも言うけど、また、俺のこと好きになってよ」
「う、うわあああああん好き好きだよぅ皆本くんが好きなのっ」

その固い胸にぎゅっと抱きついたら汗のにおいがした。皆本くんのにおい。皆本くんはぎゅうぅと抱きしめ返してくれて、幸せだと、思った。
世の中のすこしだけ尊敬すべきアベックの皆さん。私たちも今日から貴方足りの仲間になります。どうぞよろしくね!!!!!


20120719
スラダンネタどこまでいれようかと思ったけれども読んでなくてもわかるかなあというメジャーなところを引っ張らせていただきました