小説 | ナノ


この部屋に居るのは私とそれから先生だけ。
にゅるにゅると触手を動かして、私たちE(エンド)組の異様な先生は私の前に立つ。先生と一対一になるのは本当に授業の質問のある生徒かまたは先生を殺そうとする生徒くらい。私たち生徒から先生のところへ行くことはあるけれど、先生から生徒を呼び出してふたりっきりになるケースは、私の知る限り少ない。
私が授業の終わりに先生に呼ばれるとクラスはすこし揺れた。
名前食われるなよ、なんて、縁起の悪いこと言わないで男子。タコみたいな触手を持つ先生は月をガッツリ抉ったりマッハ20で動ける超生物だ。いつ殺されるかわからない。

「朝の一斉射撃にも不参加。私にナイフのひとつもつきつけない。君にはやる気の一切を感じません」

私たち隔離校舎のE組の生徒の国の偉い人から受けた使命は、この先生を殺すこと。偉い人、烏丸さんから渡されたBB弾みたいな球と銃、それからゴムみたいなナイフその他もろもろ玩具みたいな武器は、この先生に限りそうとう強力な威力を発揮するらしい。

「私に怖気づいたとか」
「違いますよ」
「私の懸賞金には興味がない?」
「それは、ありますね。あまりお金に頓着しないタチなので」
「人類の未来にも?」
「そうですね。興味がないです」
「ほぅ。それは、詳しくお聞かせ願いたい」
「私は成績が悪くてここに来たわけじゃないんです。落ちこぼれじゃ、ないんです。前のクラスに万引きした子がいて、その子が私に、」
「罪をかぶせてここに来たと」
「それまでは普通に接していた友達も先生も白い目で見るようになって、親も私のこと、信じてくれない、し。やってないよ、やってない、私じゃ、ないのに。E組にきて、正直安心してる自分がいます。だってそのことを知ってる人はいない。みんな普通に接してくれる、友達、なんです。家に帰るのが億劫なくらい、学校が楽しい。家に居ても親は腫れものを扱うみたいに、ねえ、楽しいんだよ、先生。私ね、先生には感謝してるんだ。先生の授業はわかりやすいし、前のクラスみたいに殺伐としてない。一致団結?ってゆーの?青春してるしね。だから、私、先生のこと、ころせないよ」

先生の顔はいつも通り、みどりいろ。

「地球がなくなるとき、みんな一緒なら怖くないもん。なにも怖くないよね、先生」
「それは困りますね」
「困る?」
「一致団結?笑わせないでください。そこにあなたが、名前さんが加わってないじゃないですか。何事にも全力で挑みなさい。そうですね、そこですね、私が地球を破壊する前に名前さんに教えなければならないことは。未来を生きたい。あなたにそう思わせることができたのなら、私も心おきなく地球を破壊できます」

ニヤニヤと微笑む先生。かっこいい。ああ、駄目。恋しそう。これは頑張って期待にこたえられるように先生を殺して振り向いて貰わなきゃ。



20120715