:) 2012/09/24



<海よりも>









キッケリキー!


キッケリキーが今日も元気よく鳴き、その声でイドルフリートは目を覚ます。

「……ん、朝か……」

窓から一気に光が入り、イドルフリートは眩しそうな顔をして、体をおこす。

「グーテンモルゲン!ファーティ!」

光が入った原因、カーテンを開けた娘が笑顔でイドルフリートを見る。

「ああ……グーテンモルゲン……」

再びイドルフリートはベッドに沈む。娘、井戸子はイドルフリートを無理矢理起こす。

「寝ちゃダメだよ!今日は約束の日なんだからっ!」

「約束……?」

「私とファーティのデートの日!」












「ファーティ!あのお洋服可愛い!」

「ん、どれどれ……」

井戸子のデート宣言からイドルフリートは急いで支度をさせられ、手を引かれ、街に出た。約束などした覚えはないが、娘が楽しそうなら付き合ってやろうと考え、ここにいる。

「……お前、こんな地味なのがいいのか?」

ショップに入り、服を手に取り、広げて井戸子に見せる。

「地味かなぁ?」

「こっちのほうがいいと私は思う」

イドルフリートは少し離れたところに行き赤色の服を手にとり、井戸子の近くに行き、広げて見せる。

「ふぁ、ファーティ!これ、露出度高いよ!」

「お前も年頃なんだからこれくらい普通だ」

イドルフリートが手にしたのは胸元が開いていて、短いスカートのワンピースだった。井戸子は着ません!と元あった場所に戻す。

「流石に今のは冗談だ。あんな服を着てたら変な輩が集まってくるからな」

お前は可愛いのだからとイドルフリートは井戸子の頭を撫で井戸子はえへへと幸せそうに笑う。

「だが、あれは地味だ。お前の友達の真雪の肌を持つ子のような服でもいいんじゃないか?」

「ううん、私、これがいいの!」

「……後悔してもしらないぞ」

買ってくると井戸子が選んだ服をレジに持っていき、清算をする。

「ファーティ、あの服ね、ファーティっぽいイメージなの。だから私は、あの服がいいの…」

誰も聞こえないような声で呟き、笑顔でイドルフリートの隣へ走った。






「次は、どこに行きたい?」

「あのね!私、カフェに行きたい!」

「カフェ?いいが、行き付けとかあるのか?」

ついてきて!と井戸子は走りだし、待ちなさいとイドルフリートも続けて井戸子の後を追う。そのままカフェに入った。

カランカラン…

「いらっしゃい……あら」

「奥さんお久しぶり!」

井戸子は青髭の妻のカフェにやってきて、真っ先に彼女の向かえの椅子に座る。

「久しぶりね、……あちらは?」

先妻はイドルフリートを見つめる。イドルフリートは瞬時に脳内で素晴らしいポテンシャルだと先妻に近づく。

「私のファーティ!ファーティ、こちらは青髭さんの奥さんだよ!」

「素晴らしい……お前、こんなお姉様と友達だったなんて……」

「前メルヒェンさん主催復讐劇の舞台でお世話になったんだ!」

先妻は軽くイドルフリートに挨拶をし、イドルフリートは胸元から名刺を出し、先妻の手を握る。

「よければ、娘だけでなく、私ともお友達になっていただきたい」

「ええ、わかりましたわ」

イドルフリートがポテンシャルきたぁあああ!と叫び、井戸子はファーティうるさいよ!と口を塞ぐ。その光景を見て、先妻は笑う。

「ご注文は何にいたします?」

「私はいつものココア!ファーティにはこの店で一番人気なワイン!」

わかったわと先妻は注文されたものを作り始める。

「……それにしても、このカフェの趣味は……」

イドルフリートはカフェを見渡す。カフェには鍵や扉や骸骨などと暗い闇の雰囲気を纏っている。

「旦那様のご趣味です。本来このカフェは旦那様が運営してますから」

今は遠方でお仕事ですと注文された品を出し、二人は口をつける。

「……うまい」

「本当?私も「お前はまだ酒を飲める年じゃないからだめだ」

ファーティのけちっと井戸子はココアを一気飲みする。先妻はお気に召したならよかったわと笑う。

「奥さんありがとう!おいしかった!ごちそうさまっ」

イドルフリートは代金を支払い、先妻に次はあなたをいただきにきま、まで言った後、井戸子にひっぱたかれ、店を出た。

「ファーティ、人妻だよ!」

「わかってる。本気じゃない」

「ほどほどにしてよね!次、公園行こう?」






時刻は夕方、二人は大きな公園に来た。夕陽が公園を綺麗に染める。

「夕陽綺麗だねー…」

「ああ、綺麗だ」

「………ファーティ」

「なんだ?」

イドルフリートは公園のベンチに座る。井戸子はその前に夕陽を受けながら立った。

「ファーティは、ムッティのこと愛してた?」

「…………何故いきなり」

「なんとなーくっ!ムッティ胸のサイズ普通だったから」

「…まぁ確かにな」

イドルフリートは今は亡き自分の妻を思い出し笑う。
「……愛していたよ」

「誰よりも?」

「ああ、誰よりも」

「他の胸の大きいお姉さんよりも?」

「ああ、勿論」

「海よりも?」

「………………」

イドルフリートはそこで黙る。井戸子は海には勝てないの?と聞く。

「……お前も酷い質問をするな……」

「だって、ファーティ黙るから。ねぇ!ファーティが知ってるムッティのこと全部教えて!」

「……………………あいつはな、異教徒娘で、不細工で、阿呆で、泣き虫で……」

「ファーティ、悪いとこしかないよー…」

「でもそれでも、笑った顔は可愛いくて、努力家で、海が大好きな……………素晴らしい女だったよ」

イドルフリートはどこか悲しそうな表情を浮かべる。井戸子はそれを見て、何か言わなくちゃと言葉を探しはじめる。

「お前のムッティはこういう人間だったよ」

「そっか!私、ムッティのことなんにもわからないから聞けてよかった!」

イドルフリートがベンチから立ち、そろそろ帰ろうと言い、井戸子は頷き、イドルフリートの腕を組む。

「あ!見てファーティ!夕陽おっきいよ!」

「お、これはすごいな…」

二人は夕陽を見つめながら、家路へ向かった。















深夜、朝から夕方まで街を歩き回って疲れた井戸子は熟睡をしている。イドルフリートは井戸子の頬を撫でる。

「………君は、最期にこう言ったね」




「イド……頼みがあるの」

「なんだ?なんでも言え」

「あなたは海の男………海を、愛しているのは、私にもわかる…………海が、何より大事だってことも…………でも、でも、これだけはお願い………」





―あの子を、私達の娘を、海よりも愛してあげて―







「……君の頼みはきちんと守っているよ」

イドルフリートは井戸子の額にキスをする。








「私はこの子を海よりも愛している」












Ende








――――――――――――
碧流様、遅くなって大変申し訳ございません(><)
そして、ほのぼのしてなくてごめんなさい…磔刑にでもしてください(´;ω;`)
こんなのでよければもらってください…!
リクエストありがとうございました!
またリクしてくださるならいつでも待っています!




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