未だにぽろぽろと泣いているあの女を、言いたくもないのに心配するような声が聞こえる。
「おい、夢久!大丈夫かよ!?」
「夢久先輩どうしたんスか!?」
「零テメェ何をす」
「お黙り頂けますか?───跡部、さま」
名字で呼ばれた。今までに無い経験で、心が本当に苦しくて痛くて…どうしたらいいのか、もう吐きそうだ。
「神に、嫌われたってー…私は今愛されてる!」
「それも終わりに御座います。貴女を今殺してしまえば催眠は解けます」
「いやいやいや!死にたくない!愛されたい!愛されたい!ずっと憧れた世界に、憧れたキャラがいるのよ!?私の力さえあればずっとずっと愛されていられ──…っ!!」
空気が割れた。零があの女の額から銃口を離し、あの女の頬を掠めて丸が放たれた。丸は地面に食い込み、誰もが押し黙り…目だけはあの女も零に向いていた。
「先程の私の言葉をお忘れですか?この世界は存在しているのです。貴女の……お前のその言葉は、景吾様への侮辱に他なりません!お前のその自分勝手な我儘が、この先の景吾様の将来にどれ程の影響を及ぼすかお分かりですか!?景吾様のお心にどれ程の負担を強いて、景吾様をどれ程苦しめているか…!お前は景吾様の為にならない、害しか及ぼさない存在です!ですから私が処理させて頂きます…!」
こんな風になっても、俺が泣かしてしまっても…零は俺の為に行動してくれたのだ。それでいて滅多に言葉を崩さない零が言葉を崩し、無表情ではなく怒った顔をしていた。零には申し訳ないが正直…嬉しいと、思ってしまった。零はその後すぐにはっとして無表情に戻った。
「あ、ああ…」
「…取り乱してしまい、大変申し訳御座いません。その手の催眠は無理矢理他の方に催眠を解かせると何か後遺症が残る可能性も無いとは言えません」
「っ、解く!解くから殺さないで…っ!お願い!今から解くわっ!」
あの女は手をパンッと叩いた。すると直ぐに身体と心がふっと軽くなって、今までの"それ"が無くなったのが解った。直ぐに零の方に叫んだ。
「っ、零!殺すな!そんな女の為に零が手を汚す必要はねぇ!」
零は直ぐに目を俺に向けた。催眠中だったとは言え、零を解任したのは事実。零を泣かせたのも事実。生まれて初めて祈るように零の言葉を待った。
「───…かしこまりました、景吾様」
零はほんの微かに微笑み俺に応えた。
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