欲しかった言葉を、零は言ってくれた。俺を許してくれた。本当に零は誰より優しくて、いい女だ。
するとあの女がいきなり立ち上がり、何処からかナイフを取り出した。そしてそれを零へと向けた。


「テメェ何してやがる!」

「…ありがとー、景吾くんー。景吾くんがその女に殺すなって命令してくれたからー、私動けるわー!怖かったのは確かだけど涙は演技だしー、あー…みんなの催眠解きたく無かったなー」

「左様で御座いますか」


また、空気が割れた。バンッと大きな音が鳴り、零が撃ったのは解った。そしてあの女は大きく悲鳴を上げて、しゃがみ込んでいた。


「痛っ、ああああああ…!」

「確かに景吾様は"殺すな"と私に命じられました。ですが、殺さずとも動けなくする事は可能で御座います。動きは封じさせて頂きました、まもなく全てが終わる事でしょう」

「零ちゃん…全てってどういう事や?」

「はい、忍足さん。ここにいらっしゃいます軒野さんは所謂、裏の人間に御座います。それ故にあの様な催眠術をお持ちになっていたのです。裏の人間の行き交う裏の世界には掟が御座います。軒野さんはこの掟に反しました。ご自身の力を試される際に自身の所属される組織の人間を使い、その方を植物状態にされました。その上今回は景吾様方、一般人の皆様にその力を使われました。これは許されない行いに御座います」

「な、なんで零ちゃんはそんなこと知ってるの…?」

「…それは私も一応裏の人間だからで御座います」

「えっ!?」

「でも一応、って?」

「私は確かに裏の人間ですが、それ以前に景吾様の執事に御座います。跡部財閥は巨大故に裏の人間に狙われる可能性はとても高いです。そんな人間から景吾様をお守りするには私も裏の人間になる必要がありました。今は裏の世界の裁判所の様なものに属しておりまして、私の場合は景吾様に害を及ぼした…もしくは及ぼす可能性のある者を制しその者を連行する役割を致しております。簡単に言えば、跡部財閥専門の裏の人間です」

「そうだったんだ…」

「はい、私が銃を使えるのもその為で御座います。表の世界の警察や政府より、裏の世界の私が所属する裁判所の様なものの方が権力があります故…事件にはされません」

「……零」

「はい、景吾様」

「ずっと俺の知らねぇ所で俺のために頑張ってくれて、礼を言う。お前が裏の人間だろうが俺には零が必要だ……ありがとう、これからも俺と居てくれ」

「私にはもったいないお言葉の数々…有り難う御座います。これからも景吾様の為、日々お側にてお仕えさせて頂きます。我が、主──…」


零が本当に綺麗に、本当に優しく、笑っていた。



end...

 



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