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―蘭子とサニーとお付き合いをし始めて、しばらく経った頃。



今日は二人でお弁当を持ってピクニックに来ていた。
サニーは有名人だけあって街中で歩いてると兎に角目立ってギャラリーが鬱陶しいらしい。
大自然の中の方がよっぽど落ち着くと言っていた。
「俺たちふたりっきりの世界ってのも良くね?」なんて口説き文句も忘れずに。


草原の上に広げた敷き布の上に寝転んでいたサニーが隣に座っていた蘭子の方を見上げてぽつりと言った。

「お前に会わせろって、うるさい奴がいてな」
「そうなの?どなた?」
「妹。鈴つーんだ」
「まぁ、妹ちゃん!」


前に兄妹がいるようなことは話してくれたなぁと蘭子は思い出してきた。
詳しく聞くと、サニーの4つ下でIGOの研究所で専属の猛獣使いをしてるそうだ。
男みてえな妹、と本人が聞いたら怒られそうなことも言っていたが。
言葉とは裏腹に妹を大切にしていることは伝わったきた。



「次のお休みの時に会おうか?」
「俺は蘭子とふたりっきりのが良かった・・・」
「あはは、サニーちゃん拗ねてるの?」
「ちゃん言うなし!拗ねてねぇし!」


上唇をとんがらせて、ふいっと身体ごと顔を背けられてしまった。
多色の髪の隙間から小さく見えた耳が心なしか赤い。
慰めるように頭を撫でれば、髪がぶわっと持ち上がって腕に絡まってきた。

「よしよし、サニーちゃん」
「ぅ、子供扱いかよ・・・」
「ふふ、恋人扱いだよ?」





―約束の日。


サニーがセレクトしたお洒落だけど落ち着いた空間のカフェで会食することとなった。
約束の時間より早めに到着してしまったので、先にテーブル席について、自分の飲み物だけ注文しておいた。今日はハーブティーの気分だ。
温かいハーブティーで喉を潤してから持ち歩いてる文庫本を開いて、サニーが来るのを待った。


数ページ読んでいたところで、読んでいた本が突然ふわっと上に持ち上がった。


「あら、サニーったら、着いたら教えてくれればいいのに」
「なんか、また難しい本読んでるな・・・」


見えない触覚に捕まっていた本が蘭子の座席の鞄の中に仕舞われた。
ソファーに座る蘭子に顔を近づけて、唇に触れるだけのキスをした。
蘭子が挨拶のキスに応じていると、サニーの後方から声が聞こえてくる。



「もうー!お兄ちゃん置いてかないでよー!」
「ワリ。だってお前遅いんだもん」
「ムカつくし〜〜!!」


癖のある黒髪をショートヘアにした少女が、駆け足で入店してきた。
ミニスカートからスラリとのびた脚線美が眩しかった。
目尻のピンと元気に跳ねた睫毛がサニーとそっくりだと思った。


蘭子はソファーから立ち上がって、鈴を迎え入れた。


「鈴ちゃん、初めまして。蘭子です」
「妹の鈴だし!よろしく!」
「良かったら、私の隣の席に座らない?」
「はいっ!」


メニューを見て悩みつつも、おススメのパンケーキセットを3人分頼むことにした。
セットのドリンクをサーブしてもらい、一息ついた。
ティーカップ片手に女子トークは弾んだ。
兄妹の想い出、自分がトリコに片思いしてること、仕事のことと鈴はいろいろ話してくれた。
どうやらサニーはこの状況を見守ることにしたらしく、珍しく黙っていた。


「ねぇねぇ蘭子さん、お姉ちゃんって呼んでもいい?」


鈴が蘭子の袖を甘えるようにつんつんと指で引いた。
隣から上目使いで見上げられれば、蘭子はもう可愛くてYES以外の言葉は出てこなかった。
思わず鈴をぎゅっとハグした。


「えぇ、鈴ちゃんにそう呼んで貰えるなんてとっても嬉しいわ」
「やったー!ウチ前からこんな素敵なお姉ちゃんが欲しかったんだし!兄貴でかした!」
「アン?!」


サニーの眉毛がぴくんと上がる。


「それで蘭子さんはいつお兄ちゃんと結婚するの?」
「え?」

今度はサニーの髪がざわざわと波打つ。

「邪魔だから、とっとと結婚してほしーくらいだし!」
「はぁ!?邪魔ってなぁオマエッ!」
「もしお兄ちゃんとは別れても、ずっとウチのお姉ちゃんでいて欲しいし!」
「鈴!縁起でもねぇこというなよ!」
「お兄ちゃん、せいぜい蘭子さんに嫌われないようにしてよねっ」
「俺が嫌われるとかありえねぇし!」


気付いたら結婚云々の話から兄妹の口げんかに移行してしまっていた。
驚いた蘭子だったが、元気に言い合う兄妹の姿に蘭子は微笑ましくなるのだった。


「じゃあ鈴ちゃん、今度は二人でショッピングにでも行きましょうか」
「えー!いくいく!お姉ちゃんとデート!」
「はぁあ!?俺を差し置いて出かけるんじゃねぇし!」
「お兄ちゃんうるさいし!」
「うるさくねぇし!だからオマエ連れてくんの嫌だったんだよ!」
「べ〜〜〜っだ!」


どうやらサニーは意気投合してしまうのを予想していたようだ。
ギャンギャンと応酬する二人を眺めながら、可愛い妹が出来たわ〜と胸が温かくなる蘭子であった。






1:07 2021/02/01
妹編ー強い味方が出来たようです。




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