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今日は恋人のサニーに誘われ、自然豊かな森に囲まれた湖際のレストランに来ている。
最近は増々修行に明け暮れており、会うのはグルメ馬車でのバカンス以来だ。

二人で美味しい料理に舌鼓をうちつつ、ちゃぷんグラスのワインをくゆらせる。


「それで、誰を紹介したかったの?」

食事も一段落したところで、今日の本題にはいった。
蘭子に会わせたい人物がいるから、という連絡を貰ってから今日まで蘭子は内心ドキドキしていたが、その人物とやらはまだ表れていない。
因みにこのパターンのやり取りは三回目である。


「ん、実は修行中に出会ってな・・・グルメ界から連れてきた」
「・・グルメ界から?」

そういえば、グルメ馬車で彼を見送ったワック大陸、そこは“三途の道”と呼ばれる人間界とグルメ界を繋ぐ道がある場所だ。
そこで出会ったのだろうか?


ピュィっとサニーが短く指笛を吹く、するとズズズズズズ、と何かを引きずる音が聞こえると思ったら、横の展望窓から見知らぬ巨大生物が顔を出した。
鋭いがつぶらな黄色の瞳、瑞々しく艶やかな菖蒲色の鱗としなやかな肢体をもつ、この生き物は・・・・。



「っ!?だ、大蛇!?」
「あぁ、マザースネークだ!名前はクイン!」
「え、マザースネークってあのマザースネーク?」
「ん!」


なんと、サニーの会わせたい相手とは、神話的生物だった。

サニーに懐いているらしく、鼻先を寄せてきた。
頭の部分も大きいから、窓に全然収まっていない。


「蘭子!なっ!なっ!美しいだろ?」

手を差し伸べられて、ふんわりとサニーの方に引き寄せられる。触覚のしわざだろう。
文字通りの見えない髪に引き寄せられるまま、蘭子はサニーの隣に降り立った。

「えぇ、とても綺麗な子ね」
「だろ〜!蘭子に早く会わせたかったんだ」

宝物を自慢する少年みたいな、にかっとした笑顔を蘭子向ける。


「クインちゃんに触っても平気・・?」


了承の意味なのか、クインはシャァアと小さく鳴いて、二股に分かれた舌先をチロチロだした。


「ああ!撫でろ撫でろ」


ドキドキしながら、蘭子はそっと手を伸ばしてクインの鼻先を撫でた。
蛇特有のひんやりした感触が伝わってくる。

「初めまして、クインちゃん。蘭子よ」

よろしくね、とすべすべのほっぺを撫でた。
クインは舌先をチロチロ出して返事をしてくれているようだった。


「クインは俺の相棒になったんだ」



「そうなの、あなたサニーの相棒になってくれたのね。この人我儘だけど仲良くしてあげてね?」
「なッ!蘭子ひでぇし!」
「これからは私とも仲良くしてね」


よしよし、お利口ね。と撫で上げて蘭子はクインの鼻先にちゅっとキスを落とした。



二人でひとしきりクインを愛でたあとはサニーに抱き上げられて、クインの背中に乗せてもらい帰路についたのだった。




「なぁ、俺には?」
「なにが?」
「クインにはキス、してたし」

あらあら、相棒に焼き餅やくなんて。と思ったが、悋気するサニーも負けずに可愛らしかったので、蘭子はちゅっと触れるだけのキスを贈った。

「これで機嫌なおったかしら?」
「ん。でもちょっと足りないけどなっ」


そんな言葉とは裏腹にサニーは猫みたいに目を細めて嬉しそうに笑っていた。




20:15 2021/01/29

帰ってきたらすぐ自慢しにいくだろうな、と思って。
菖蒲色の相棒編




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