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一日の仕事も片付いた、午後6時。

今日は大学での講義の日だったので、学生からの質問攻めにあったり単位が欲しいと泣きつかれたり、レポートをチェックしたりと大変だった。
帰宅しようと準備をしていたところ、-コンコンと私に宛がわれた研究室のドアがノックされた。誰だろうか、学生かしら?


「はいはい、あいてますよー」


ドアの方には目もくれず仕事道具を鞄につめていく。今日はカレとの約束があるのでゆっくりしてはいられないのだ。




「失礼します。蘭子さん、いまお時間よろしいですか?」
(げぇ・・・)



入ってきたのは学生ではなく同じ大学で教鞭をとっている準教授の男性だった。
最近彼はイケメングルメ評論家としてテレビで大人気だ。イケメン、と称されるだけあって幾らか自信があるようで、ご自慢の甘いマスクを武器にマダムや女子学生をメロメロにしている。その彼はどうやら私に興味があるらしく、何かにつけて話しかけたれたり、食事の誘いをうけていたのだった・・・。
私はカレ…サニー一筋だし、はっきりいって興味もないし、毎回当たり障りなくお断りしている。

「もう帰宅するところでした。何か御用です?」
「あぁ!それはタイミングがよかった。これからディナーに行きませんか?いい店を予約してあるんです」


またディナーの誘い・・・毎度断ってるのに懲りていないらしい。




「あら、とても素敵なお誘いなのですけど、生憎私これから用事がありますので・・・ごめんなさいね?」


コートを着つつ、申し訳なさそうに眉根を寄せて見せた。
これが大人のお断り方、というものである・・・。
我ながら白々しいがホントに行きたくないので仕方がない。



「蘭子さん、貴女はそういって先週もお断りされましたね・・・僕はこんなにも貴女と親しくなりたいのに」
「まぁ・・・それは知りませんでしたわ・・・」



(うげ、めんどくさいことになった)

私は内心顔をしかめる。




「実は・・・僕は蘭子さん・・・貴女が好きなんですよ。仕事への情熱、類い稀なる才能、そしてその美貌!僕は一目見た時から貴女の虜なんです!!」




(うわぁーうわぁーめんどくさい!めんどくさい展開ー!?さわるなぁー!!)


がしっ、といつのまにか距離を詰められ手を握られていた。


「そ、そうでしたか・・・お気持ちは大変嬉しいのですが、私にはもう、恋人が・・・」


手を離してもらおうと解こうとするものの、いっこうに相手の手は離れなかった。




「それはどこの男ですか!そんな男より僕の方が蘭子さんを愛していますよ・・・!」
「は?え、あ、え!?」



そしてイケメン準教授はぺらぺらと自分の華麗なる経歴は話しだした。


(か、帰りたい・・・今日はサニーとお家ディナーする約束なのに・・・)


「と、いうわけで、その辺の男じゃあダメだ!僕しか君を幸せには出来ないよ・・・!」


―ぷっちーん


私の中で何かが切れた。


「・・・・・・・」
「蘭子さん!これでわかってくれただろう?」




バッッと掴まれた腕を離させて、準教授の胸倉に掴みかかった。




「・・・っ、蘭子さん・・・?」


キッと下から睨みあげれば、彼は見るからに動揺して冷や汗をかいていた。

「私のステディがその辺のありきたりな男ですって?!あの人以上に美貌に溢れて、可愛らしくて、センス抜群で、パーフェクトで、セクシーで、ありのままの私を愛してるくれる人は世界にただ一人しかいないのよ!」


大人気もなく怒りにまかせてまくし立てる。相手も私の突然に変貌ぶりにたじたじだ。嗚呼、被っていた猫が裸足で逃げていく。


「ぁ、蘭子さん、お、落ち着いて・・・!」



「気安く名前を呼ばないで頂戴!私、こう見えてもじゃじゃ馬ですの。上手に乗りこなせて?」


言いたい放題言って、胸倉をはなして、ドンと後ろに突き放してやった。


「さぁ、分かったらとっとと帰って頂戴、坊や。」


「僕はあきらめないからな!」とありがちな捨て台詞を残して彼は涙ぐんで退室していった。


荒い鼻息を抑えて、中断されていた帰り支度を再開すると、また部屋のドアがノックされた。もうだれぇ??!!わたしは早く帰りたいのにぃ!!!



「だーれー?レポートならまたあし・・た・・・・」
「・・・オレは学生じゃねーし」



研究室のドアを開けたのはなんとサニーだった。今日は自宅ディナーの予定だったし、いつもと比べてYシャツにジーンズとラフな格好だ。


「あれ?サニー??うちで待ってたはずじゃ・・・」
「ん。」


ずいと、前に出されたのは真っ赤な薔薇の花束。


「とても綺麗ねぇ!ありがとう!」


鼻を近づけると薔薇からは花特有の甘い香りがした。


「迎えに来てくれたの?」


少し背伸びをして、サニーの首元に抱き着いて頬に感謝のキスをした。


「部屋に飾る花がなかったから、ついでに、な・・・」
「遅くなってごめんね?さ、帰ろー」


バックのベルトを肩からさげて、サニーの腕をとっても何故だかサニーは動こうとしない。




「どうしたの?そんなにこの部屋汚かった?」
「ち、ちげーよっ!」
「ならよかった。変なサニーちゃん!」
「っ!ちゃん言うなし!ちゃん!」


やっぱりちょっとサニーの様子が変だ。


「・・・・蘭子」
「んー??」



変だと思って顏を見上げたらいきなりキスされてしまった。




「・・・っむぅ・・・ふ・・・」



しかも舌を絡めるとびきりエッチなキスときた・・・。
求められて悪い気はしないけど、ここは職場なのだ・・・誰が来るかわからないからやめて欲しい。




息継ぎの隙を見て距離をとって聞いてみる。


「い、いきなりどうしたの!?」
「・・・なんでもねーし!黙ってキスされてろ!」
「えぇ!?・・っふぁ・・さ、さにぃ・・・!」






もうわけがわからないよ・・・。





(オマエの言葉がすげぇ嬉しくて辛抱できなかったなんて、かっこ悪くて言えねぇじゃねぇか・・・)


加筆修正20130712
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