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―古代の食宝の“宝石の肉”とは

古代の食宝と呼ばれる巨大なマンモス種、リーガルマンモスの体内から採れるとされる特殊な部位の肉である。
その味わいはヒレやサーロイン、内臓などといった全身の身の旨みの全てを兼ね備えているといわれる。
この部位の存在がリーガルマンモスを『古代の食宝』と呼ばしめる所以である。

古代において宝石の肉は高価なご馳走としては勿論、その宝石のような輝きから結婚指輪の代わりにもされていたという。
それはリーガルマンモスを仕留めたという強さの証でもあり、多くの男たちが宝石の肉を求め旅に出たのである。

その肉の位置は個体により違うため見つけ出すのは至難。
小売り価格、100g500万円で取引されている。







今日までにまとめた、原稿の草案をぺらりと読み返して、第一ビオトープに向うヘリの中で蘭子はぽつりと呟いた。


「実物、楽しみだわぁ」





―遡ること数時間前。


キャンパスに出勤してきた蘭子の携帯端末に一本の電話が入った。


『お姉ちゃんおはよう!いま大丈夫?』
「あら鈴ちゃん久しぶり。構わないわよ?」

サニーの妹の鈴からの着信だった。仲良くなり蘭子をお姉ちゃんと呼び慕ってくれている。
今日はどうしたの?と続ける。久しぶりにお出かけのお誘いだろうか。

『お姉ちゃん、前に宝石の肉食べてみたいって言ってたよね?』
「えぇ、そうよ」
『やっぱり!いまウチのところで捕獲して取り出すって話をしてて〜』
「まぁまぁまぁ!素敵!」
『採取したら多分みんなで食べると思うから、お姉ちゃんも一緒にどうかなって!』
「本当に!?勿論嬉しいけど、お呼ばれしてもいいの?」
『ぜーんぜん大丈夫!所長にも許可取ったし!』
「ありがとう鈴ちゃん!」
『えへへ、研究所で待ってるからね!』
「わかったわ!」


ヨハネスに迎えにいかせるから!と言い残して通話は終わった。
毎度運転手をさせられてるヨハネスには申し訳ないが、お言葉に甘えよう。知的好奇心には勝てない。


「よし、そうと決まったらこうしていられないわ!」


蘭子はデスクのパソコンに向かい、教員用のシステムを呼び出し今日から3日ほどフィールドワークのための休暇を申請した。
受け持つ学生向けに休講の連絡とその間の提出課題のメールを作成して送信する。


一旦帰宅しようと、手荷物持って駐車場に向っているとまた端末が震えて着信を知らせた。

『もしもし、ヨハネスですが・・・』
「あ、いつもすみません。今日もお世話になります」
『いえいえ、あと2時間程で到着しますがどこにお迎えに行きましょうか』
「では、自宅の方に来ていただけますか?」
『わかりました』


手短に通話を着ると、帰宅するために愛車に乗り込んだ。

2時間後、時間通り迎えにきてくれたマッハヘリに乗り込んで第一ビオトープへと向かうのであった。









―リーガル島、第一ビオトープ、第一グルメ研究所。



ここまで連れてきてくれたヨハネスにお礼を言って別れ、蘭子は黒服に案内され地下52階の特別調理室に足を踏み入れた。

入室すると目の前にはリーガルマンモスの巨体が横たわっていた。
ノッキングを施されているのだろう、マンモスは動かなかった。
何やら口腔からマシンをいれている。

「所長、お連れしました」
「おぉ!ご苦労さん」

酒樽を抱えたほろ酔いのマンサムが振り返る。


「お久しぶりですマンサム所長。今日はご招待ありがとうございます」
「なんのなんの。鈴のやつが張り切ってたからな」
「そうなんですね、私も朝聞いて楽しみにしてきました」
「ま、張り切ってたのはアイツもだが」
「ふふ、そうですか」

彼の奮闘ぶりを想像したら自然と笑みがこぼれた。

「それで鈴ちゃんたちはいまどこに・・・」
「おぉ、あいつらにはいま親リーガルを捕獲しに行ってもらってる」
「親リーガル?でしたら、こちらは子供のマンモスなんですか?」


すごい、と蘭子が目を見開いて驚いていると子供マンモスがぴくりと動いたかと思ったら激しく鳴き声をあげた。
身体を押えていた鎖と、まるで糸でも切るかのようにぶちぶちと壊した。
マンモスがノッキングから目覚めて、あたりは軽いパニック状態だ。


「あらまぁ」
「ったく、サニーの奴め、ノッキングが浅いわ」


けたたましく鳴いて暴れる子供マンモス。


「あ、いまハンサムっつってない?ワシのこと」
「言ってないと思いますよ」
「そっか・・・」




宝石の肉・1




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