そんなところも好きよ
―武田の一日は朝の鍛錬から始まる。
道場のある方角から、気合の入った掛け声が聞こえる。
椿はその声で毎朝目が覚める。
「幸村は今日も元気なようだな・・・」
ぼうっとそんなことを考えながらずるずる床から出る。
先に簡単に着替えを済ませると、顔を洗うために井戸へ水を汲みに自室を出た。
井戸の傍によく知った人影を見つける。
自分が恋してやまない幸村の姿だ。
どうやら鍛錬を終えて汗を流すのに水を求めにやってきたようだった。朝から会えるなんて・・・と椿の心は躍った。
幸村はまだこちらの気配には気づいていない様子。椿にある考えが浮かんだ。
そっと幸村の背後に忍び寄る。静かに両手を伸ばし幸村の目元めがけて手のひらを伸ばし目を覆う。そうしたらあとはこの台詞をいうだけだ。
「だーれだ?」
「ッ!?!?!?」
声をかけると幸村の方は絵に描いたように跳ね上がった。よほど驚いたらしい。
「ほれ、早く当ててみろ?」
「つ、つばきぃ!?!?」
無事に当てて貰い手を引っ込めた。
「椿、あ、朝から心臓に悪いぞ・・・」
「ふふ、一度やってみたかったのだ」
幸村の心臓は動悸がいまだに収まらない様子だ。
肩で息をしている。
「ふふふ、幸村、おはよう」
「おはよう椿・・・」
幸村の真っ赤な顔と朝の挨拶を交わす。
今日もいい一日になるな、と椿は思った。
(そんなかわいいあなたが私はとっても好きよ。)