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小さい二人を二階の子供部屋で寝かしつけて、一階に戻るとみんながハウスに帰ってきていた・・・。
でもそこにマーサの姿はなかった。
応援に駆け付けてくれたミッシェル先生も暗い顔していた。
タクヤ達が泣く。
牛尾が許してくれと、膝をついて悔やんでいるようだった。
ルドガ―は相当汚い手を使ったらしい。
マーサが文字通り消えてしまった。地縛神に魂を喰われてしまったのだという。
地縛神に食われた魂は地縛神を倒さないと帰ってこない、なんて遊星は言う。
そんなむしのいい話・・・それでも今は信じたいという気持ちでいっぱいだった。
話し合いの末、シグナー達は手分けして、旧モーメントの制御装置に向うことになった。
雑賀はハウスに残ってくれるようだ。男手はいくらあってもいい。
私はひとりで京介が待ち受けているであろうポイントに行こう。
会いたい、一目だけでも。声を聞きたい。
「雑賀ごめん。私もあの人のところに行かなきゃ」
「そうか・・・止めても無駄だろうしな。気を付けていけよ」
「ありがと、」
「・・満・・・ちゃんと帰ってくるんだよ?」
「うん、先生」
先生も昔のことを知っているので、何か言いたげだったが、結局は何も言わずに見送ってくれた。
ミッチェル先生と雑賀にハウスを任せ、私はハウスを飛び出した。
生物の気配もなくなり、本当のゴーストタウンと化したサテライトの街を私は走った。
もう口のなかがカラカラだ。
走り続けて、拠点付近に到着したが、先に出たはずの遊星はまだいない。
どうやら私の方が早かったようだ。
遠くの空で光る地上絵の出現があったから、そちらに寄り道してるのだろうか。
私にとっては好都合だが・・・。
きょろきょろとあたりを見回すと瓦礫の山に人影がみえる。
「・・・京介、京介なんでしょう?」
出てきて、と私が呼びかければ、京介が姿を現した。
「満・・・お前なら来ると思ってたぜぇ・・・」
「・・・京介」
目の前の京介が眉根をぎゅっと寄せて苦しそうな表情で目の前に立っている。
彼にそんな顔をさせてしまう私は、いまどんな顔をしているんだろう。
京介が一歩一歩、静かに私に歩を進めてくる。
「俺はこれから、遊星と決着をつける」
すっとから京介の腕が伸びてきて、胸に抱き込まれてた。自然と京介の背中に腕を回していた。
京介の頭が私の首の付け根に埋まり、私は京介の胸に顔を押し付ける。
まるでひとつのパズルのピースであるかのように、私たちは隙間なくぴたりと抱き合う。
そうか、これはあの日の、最後に別れた時の再現なんだ・・・。
それを自覚した途端、鼻の奥がツンとしてきて、涙まで込みあげてきてしまう。
泣くな、泣くな、泣くな!泣いたらだめ!笑って見送ってあげたいの!
涙を見られたくなくて、京介の胸にぐっと顔をうずめた。
耳元で優しい声色で京介が言う。
「満、俺の帰りを待っててくれるか?」
「、えぇ・・・待ってる、あんたのこと待ってる・・・」
きっと京介は負けてしまう。本当は優しい人だから。仲間思いの人だから。
一度懐に入れたものに対しては非情にはなりきれない人だもの。きっと京介は遊星に負けてしまう。
私の返答に満足したのか、ことさら強く抱きしめられた。
ねぇ、京介、抱きしめてくれる腕の強さに、胸が、心臓が、心が、苦しくて仕方がないよ。
そうしてどれくらい抱き合っていたのだろう、遠くの方からエンジン音が響いてきて、私たちは身体を離した。
付近に停めてあったのだろう、Dホイールにまたがると、エンジンを回転させ勢いよく発進した。
私はうまく笑えていただろうか。
(今度こそ私があなたの最期を見届けるから)
「とうとう決着をつける時が来たようだな!あの時叶えられなかった、チームサティスファクションのラストデュエルを!!」
京介が走り去った方角を見れば、そこには炎のレーシングフィールドが出来上がっていた。