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―鬼柳京介は決闘も好きだが、ケンカも好きだった。


サテライトの地下深くにある、格闘技場。
治安維持局も黙認しているらしいという、この場所はサテライトにある数少ない娯楽場だった。
シティからも金持ち連中が試合を観に来るという盛況ぶりだった。金持ちの間では密かに賭けも行われているという。


そしていまここではデビュー戦から無敗の女王、朽無満の話題でもちきりだ。
若干15歳の若さでデビューしてからというもの、2年経った今でも負け知らず。誰にも土を付けられたことがない。
その圧倒的な腕っぷしと巧みな技で自分の身長の倍もあろうかという屈食な男たちを華奢な少女が打ち負かす様に観客は熱狂した。
その姿は瞬く間にサテライト住民の憧れとなった。
気付けば少女はサテライトの女王と呼ばれるようになったいた。


(惚れたぜ・・・女王!!)
鬼柳も女王に憧れたうちの一人だった。
彼女の圧倒的な強さ、美しさ、生き様、すべてに憧れ、そして惚れた。骨抜きになった。自分と同年代ということも相まっていた。
ブロマイドも手に入れるほどの熱心ぶりで、こんな女が自分にものになってくれたらどんなに幸せだろうかと何度も夢想したものだった。


彼女は戦い続け王者の地位を守り抜きとうとう殿堂入りを果たした。いままでに誰もなしえなかった記録だった。
そして闘う相手のいなくなった無敗のサテライトの女王はあっさりと引退し、約3年ほどの格闘家人生に幕を閉じた。
彼女がいま何しているのか、誰も知らない。
大金もらってシティに移り住んだとか、結婚したとか、裏社会のボスになったとか、とかいろんな噂が飛び交ったがどれも真実味はなかった。


鬼柳もそれはもうがっかりしたものだったが、決闘でサテライトを制覇するという自分の夢を果たそうと奮起した。
そして鬼柳は遊星、クロウ、ジャックたちと出会い、決闘チームを組むことになり、本格的に拠点を決めることになった。
3人がぴったりの場所に心当たりがあるというのでそこを訪ねて行くところだ。
先導するクロウの後にぞろぞろついていく。鬼柳だけが目的地を把握出来ていなかった。


「で、クロウ、いまどこ向ってんだ?」
「俺たちの姉貴分がな、この辺にいるんだよ」
「姉貴ねぇ・・・」
「たしかに奴がいれば、飯には困らんからな」
「へぇ」

ジャックの言葉に物静かな遊星が静かに頷く。弟分たちからの信頼は厚いらしい。
たしかに育ちざかりの彼らには大事なことだろう。まぁ、くいっぱぐれないのはいいことだとは鬼柳も思う。
聞いた話によると、その姉貴とやらは同じ孤児院で育った仲で決闘の腕はからっきしだが、ケンカは誰よりも強いという。
(ケンカが強いオンナてのは、割とどこにでもいるもんなんだな)なんて鬼柳は呑気に考えていた。

4人はそれからしばらく歩いて運河沿いのでかい廃ビルの前に到着した。
静かで、このあたりには誰も住んでいないようだった。
クロウが入口の扉を遠慮なくあけて呼びかけた。

「姉ちゃーん!!オレだよー!クロウだけどー!」

遊星もジャックもいるぞー!と続ける。

すると廃ビルの3階の窓から、こちらを見下ろすような人影を鬼柳は目の端に捕えた。
そして階段を駆け下りるような音が聞こえる。


「あら、あんた達。久しぶりじゃない、何しに来たの?」


クロウの背丈とそう変わらない身の丈の女が扉の前に現れた。
元気だった?なんて弟たちを心配している様子だった。


引退試合の時より髪は伸びていたが、4人の前に仁王立ちしたその姿は間違いなくサテライトの女王、朽無満その人だった。
彼女を見た瞬間、鬼柳の身体に雷にでも打たれたかのような衝撃が走った。


「好きだ!!!オレの女になってくれ!!」
「はぁああ!?!?!?」


そして気付けば、絵本の中の王子様よろしく、彼女の前に片膝をついて両手をとり求愛していた。
後の三人は展開についていけずただただ目をまんまるくしている。
一拍遅れて、満が正気を取り戻した。


「ッ!?!、ちょ、一体誰なのよアンタ―ーー!!!!!」
「俺は鬼柳京介ってんだ!絶対満足させるから俺の女になってくれ!!」


―これが、鬼柳と満の出会いだった。
これ以後、満は塒に押し掛けられるわ、鬼柳に迫られるわで苦労が絶えないにぎやかな日々が幕を開けたのだ。

Boy meet Girl

私はどうやら早まったようです。



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