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「我々はセキュリティだ。Dホイールを置いて速やかに投降しろ」

いかめしい声色が響いた。
大八車に括り付けられたDホール、それを引っ張る老人たちに向けてライトが当たる。いかにもそれっぽい。
ビビった素直な老人たちは逃げ出し、その後ろから下着一枚の少年たちがDホイールに駆け寄る。


「へへへ、地獄に仏とはこのこった」
「よかった〜!」
「セキュリティさまさまだな」


安心してる少年たちに、雑賀の後に続いて近づく。


「よう、」
「「「「雑賀さん!!」」」」

「随分洒落た格好をしてるじゃないか」
「あらま、服まで盗られちゃったの?」


だれ?と雑賀の隣の見知らぬ女性の存在に4人は困惑する。


「お前たち、何があったんだ?」
「さっそくで悪いんだけど、教えてもらえる?」


「このおねえさんはだれ?」
「サテライトの女王っていえばわかるか?」
「ちょっと、雑賀!」


となりの雑賀が代わりに応える。


「え、BAD地区に君臨してるっていう、あの?」
「地区住民を恐怖で従えてるっていう、あの?」
「まさしくその女王様だ」


「オホン、いまは私のことはどうでもいいから・・・」

早く話しなさい、と私は先を促した。

ついさっきサテライトの上空に光る地上絵が出現した。とても立体映像とは思えない光景が繰り広げられていた。
黒い、人のような、巨大なモンスターの出現。その周り一体の地震。

あれはなんだったの?
私は現場に居合わせたであろう、ラリーたちから話しを聞きたかったのだ。


「あぁ・・クロウが言ってた話なんだが・・・」

眼鏡の少年が、おずおずと話し始めた。
どうやらあの現象は『ダークシグナー』と呼ばれるやつらに挑まれた闇の決闘の影響によるものとのことだ。
遊星と闘っていた相手はあの鬼柳らしい、と仲間の一人がいう。
彼らも鬼柳のことはよく知らないらしいが、クロウたちがそう呼んでいたというのだ。
そして決闘の末、クラッシュして大怪我を負った遊星はクロウにマーサハウスに担ぎこまれたしく、4人はDホイールを持って後を追いかけている、ということらしい。


「鬼柳?・・・相手は遊星たちの知り合いなのか?」
「・・・・っ」


(鬼柳だ?そんな名前のやつ、そう何人もいてたまるか)
遊星が、クロウが、ジャックが、見間違えるはずなんてない、だから本当に鬼柳は彼、京介なのだろう。

私はぎっ奥歯を噛み締めた。

また厄介な闘いを強いられたもんだ。
可哀そうに弟は相当不幸な星の元に生まれてきてしまったのかもしれない。


「・・・ありがとう、なんとなく状況は掴めたわ」
「満大丈夫か?なんか顔色悪いぞ?」
「うん・・・」


遊星のことも心配だったが、ハウスに向う雑賀達を見送った。
明日、あのくそ長官を問い詰めなければ気が済まない。あの男の事だ何もかも知っていてサテライトを、BAD地区を巻き込んだに違いない。
あの男は選民意識の塊のようなところがある。












塒に帰ると、私はそのままベッドに寝転がった。
今日はもう何も考えたくない・・・寝てしまおう。
私はそのまま目を閉じて眠りの底に沈もうと思った・・・

がたんっと物音が聞こえ私の意識は急に浮上した。
え、泥棒?侵入者?私の家に?女王の私の家に?
それとも知り合いか?それにしてもこんな未明に?


不思議な胸のざわつきを押えてつけて、私は壁に立てかけてある、先がコの字に曲がった細めの鉄パイプを持って寝室を出た。
階段を下りて、食堂にもなっているフロアに足を踏み入れる。
ダイニングテーブルの前にたしかに人影があった。

「だれ・・?そこに誰かいるの?」

呼びかけると、一歩、また一歩とじれったいぐらいに人影はこちらに近寄ってきた。
この背の高さは男だろうか。

窓から差し込む月明かりの前まできて、ぼやんやりと男の全身が浮かび上がってくる。
そんな、まさか、あんたは・・・。


「よぉ、オレだよ、満・・・」
「・・・きょう、すけ?」


着ている服にはまるで見覚えがないが、その勿忘草色の髪、トパーズの瞳は京介のものだった。
私はいまだに夢心地でよろよろと彼に近寄る。彼だ、彼なんだと私の心が叫ぶ。
頬に触れた指先がひんやり冷たい、蛇みたいだ。人間の温もりを感じない。匂いもしない。
これは夢なんだろうか?あまりにも都合がいい。


「・・ほんとうに、ほんとに京介なの?」
「そうさ、オレはなぁ、蘇ったんだよ、」


―死の淵からなぁ。三日月みたいに口の端が持ち上がった。


最後にみた、狂気に蝕まれた彼の姿とぴたりと重なった。
獄死したはずのかつての恋人、鬼柳京介に間違いなかった。


不意に距離を詰められてぎゅっと前から抱きこまれる。
まるであの日、あの雨の日の再現みたいだった。


「お前は、ここでずっと待っててくれたんだな」
「・・・・そうよ」

京介の顔が近づいてきて、どちらともなくキスをした。

気付くと無遠慮に舌が差し込まれて、口腔内を蹂躙される。
背中に回っていたはずの手はまろやかな臀部をまさぐっている。
スカートをたくし上げられて、下着の中に冷たい手が入ってきた。


「はぁ、んっ、きょ、すけ・・やめ、」
「ん、満、満・・・」


抱かせてくれ。なんて、縋り付かれて、耳元で囁いてくる。
私が大人しく抵抗を止めると、京介は私を横抱きにして寝室へと続くの階段を上がっていった。

性急にベッドの上に押し倒される。スカートをウエストまでたくし上げられ、下着をはぎ取られる。
そこまでいってしまえば、あとはもうなし崩しだった。



「満、会いたかったぜ・・・」



―私たちはシーツの海に沈んだ。






カーテンの隙間から朝日が差し込み、私は目が覚めた。
昨夜はなにかすごいことが起こった気がする。
死んだはずの京介が家を訪ねてきて、そのままふたりで・・・・。
なんという夢を見たのだろう・・・我ながらリアリティがありすぎた。

布団から這い出ようとすると、冷たい何かにウエストを抱き込まれ布団の中に引きもどされた。


「満、おめざめかぁ?」
「・・・へ?」


ゆ、夢じゃなかった。(裸だったからそんな気はしていた)
ウエストに回ってきたものの正体は京介の真っ白い腕だった。


「きょ、京介!・・・夢かと思った」
「昨日のこと、忘れたなんて言わせねぇぞ?あんなに激しく啼かせたのに」


満足したかァ?なんていささか下卑た声色で言われた。もうなんか顔から火が出そうだ。


「生きてる?京介、ほんもの?本物・・・?」


昨夜も重ねた彼の身体が確かめるようにぺたぺた触る。不健康なほど青白い肌、痩せて括れた腰、顔を走る赤いマーカー、そして闇のように暗い結膜。
京介がいう。

「俺はな、遊星に復讐するために蘇ったんだ」
「復讐・・・」


あの日の後、暫くしてやっと冷静さを取り戻した私に遊星は言っていた、京介は誤解したままセキュリティに捕まったんだと。
間違いなくそのことを指しているのだろう。


「なんで、京介・・・バカ・・・もう闘わなくてもいいのに・・・」


ずっと私と一緒にいよう?今度は私が縋り付く番だった。
よしよし、と慰めるように背中をさすられる。ぼろぼろと溢れた涙が零れ落ちて京介の裸の胸を濡らした。

なんで、あんたはいつだって、死んだって、闘おうとするのよ。
ほんと男ってバカな生き物なんだろう。


そしてまたなし崩しに身体を貪られたかと思うと、次に私が目覚めた時には京介の姿はどこにもなかった。
ベッドの隣の再度テーブルに、『また来る』なんて書き置きがあった。




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