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―あの日
「これからオレ一人で、セキュリティをぶっ壊してくるからよ。満はここでオレの帰りを待っててくれ」
「え?」
―私が聞いた彼の最後の言葉だった。
ねぇ、その話はこの前止めてって言ったじゃない。遊星が出て行ったから諦めたんじゃなかったの?
クロウ、ジャック、そして遊星までもがあんたの元からいなくなってしまったのに、自分の行動の異常さに気付いていないの?
自分でも認めるの怖くて言えなかったけど、サテライトを制覇してからの京介はどうかしてるよ?
まるで人が変わってしまったみたい。もう敵なんてどこにもいないのに、もう闘う必要なんてどこにもないのに。
チームのみんなで、弟たちと、楽しく決闘してる姿なんてもう久しく見てないよ・・・。
ねぇ、一体あんたに何があったの?私にも言えないことなの?なんでもいいから、なんでも受け止めるから、お願いだから、私に教えてよ!
どこにも、行かないで京介!
私をひとりぼっちにしないで!!
「ま、待って!!!行かないで京介!!!!」
京介が部屋を飛び出して行ってしまう。
―私はここ最近ずっと体調不良に悩まされていて、後追うことが出来なかった。
この時、私が殴ってでも京介を止めていれば。
―そしてその深夜京介はセキュリティに捕まった。
「ねえ、遊星・・いま・・なんて・・・なんていったの・・・?」
ウソでしょ?ウソなんでしょ?ウソっていいなさいよ!
「・・・・鬼柳がセキュリティに捕えられた」
明くる朝、遊星たちはみんなびしょびしょになって帰ってきた。
(雨もすっかり止んだというのに、耳の奥で雨音がうるさく聞こえる)
私はタオルを出してやる余裕もなく、遊星に掴みかかった。
「バカ言わないで!!!あんた達が揃ってて何もできなかったっていうの!?ふざけんじゃないわよ!!」
「・・・っ!姉ちゃん、遊星は自分で、」
「言い訳するの!?」
クロウの言葉を遮るように私は怒鳴る。
「その服は一体何なの?単なる飾りだったわけ?」
「なんで仲間ひとり助けられないのよ!!!!」
「悔しかったら何か言ってみなさいよっ!!!」
「全部あんたのせいよ、遊星ッ!!!!!」
違う、ホントは京介の暴走を止められなかった私のせいだ。
遊星は、この子たちは、何も悪くないのに・・・・。
遊星の胸倉を掴んでいた手を離してそのまま地面に突き飛ばした。
「ねぇ・・・返してよ・・・」
「私の京介を返しなさいよ!!!!!!」
―そして私の世界は暗転した。
目を覚ますと、ハウスのベッドの上だった。私が倒れたことで弟たちが慌てて運び込んだらしい。
診察してくれたシュミット先生によると、ここ最近の体調不良は妊娠のごく初期の状態がもたらしたものだったようだ。(このことはマーサ以外には言わないでくれたらしい)
そして私の身体は過度のストレスと栄養不良に耐えきれなくなり、わかりやすく言えば流産してしまったという。
診察からの帰り道あまりにも現実味のなさに私は帰宅してから泣き崩れた。
京介獄死の知らせが届いたの、それからしばらくしてのことだった―。
収容中の面会も自分の権力をもってしても、離れたところから見ることしか叶わなかった。
せめて弔いがしたくて、収容所に掛け合ったが遺体もすでにないという、そっけない回答のみだった。
どうして、私は、あの時、彼を引きとめられなかったのだろう。