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ついにこの日がやって来た。フットボールフロンティア全国大会開幕式。そこには地区予選で戦った雷門中の姿もあった。

『…この後一回戦目があるので帝国学園と佐晩奈中は試合の準備を……、え?…、……し、失礼、たった今世宇子中学の特別招待枠での参戦が承認されたので第一回戦は帝国学園対世宇子中へ変更になりました。二校の生徒は試合の準備をお願いします。…これにて開幕式を終わります』

会場がどよめき始める。帝国学園の生徒もこのアナウンスには驚いたようだ。

「…おい、どういうことだ鬼道?」
「わからない…世宇子中なんて聞いたことないからな…」
「開幕式にも出てねーみたいだしな」
「無名校ならきっと余裕っスよ〜」
「まあ、戦ってみればわかるさ。気を抜くなよ成神」
「はーい」
「それでは今からフォーメーションの最終確認をする。皆控え室に集まってくれ」

帝国学園サッカー部の生徒は揃って控え室へと向かって行った。


一方、その頃。
世宇子中の生徒は既に控え室で着替えを行なっていた。
そこへ全身を黒で統一した長身の男とその部下だろう男が入ってくる。部下の男はコップに入った水を人数分持って来ていた。

「着替えた者から飲め」
「はっ、総帥」

着替えの終わった部員が一人、また一人と何の疑いも持たずに喉を鳴らしながらその水を飲んでいく。
そんな中、その水を口にするのを躊躇う人物がいた。それは源田が10年前に出会った少女――の様な容貌の少年である。
気が進まない様子の照美に長身の男はこつこつと靴を鳴らして近付く。

「アフロディ、これを飲むのは初めてか?」
「いえ…」

照美は一度だけこの水を口にした事があった。しかし、何故だか水を飲んだ後の記憶が一切無いのだ。
他の部員は好んで飲んでいるようだったが、飲んだ後は必ず豹変したかのような荒々しいプレーをする。不信感を持たない方がおかしかった。

「まさか、飲むのが嫌なのか?」
「そ、そんなこと…!…少しだけ…怖いですけど」
「神になるのが、か?」
「はい…、何か大切なものを失ってしまうような気がして…」
「だが、その代わりにお前は大きな力を手に入れる。それがお前の望みなんだろう?サッカーで、頂点に立つことが」
「…………」
「さあ、飲めアフロディ。お前には期待している」
「はい…総帥……」

もう後戻りは出来ない。照美は覚悟を決めてコップを手にとると入っている水を一気に飲み干した。
































『さあ始まりました!フットボールフロンティア全国大会!第一戦目は昨年の優勝校帝国学園と初出場で飛び入り参加の世宇子中だー!!』

「なぁ、世宇子…だっけ?1人足りなくね?」
「部員が少ないんじゃないのか?」
「いや、よく見たらキャプテンマーク付けてる人いないっスよ」
「本当だ…どういう事なんだ…」

相手チームのキャプテン不在に帝国学園の生徒は戸惑いを隠せない。対する世宇子中は全員余裕の表情だ。

「相変わらず準備が遅いなアフロディは」
「ま、そんなところも可愛いんだけどな」
「おっ、来たぞアフロディ」

世宇子中の生徒が控え室への出入り口に目を向けると帝国学園の生徒もつられてそちらを見る。その視線の先にいた人物を見るなり源田が声を上げた。酷く驚いている。

「てるみ!?」

そこにいたのは世宇子中のユニフォームを着てキャプテンマークを付けている照美で間違い無かった。しかし、その目に光は宿っていない。具合でも悪いのかと考えた源田は心配して照美に駆け寄った。

「てるみ…どうしたんだ?気分悪いのか?」

源田が伸ばしかけた手を照美は躊躇無く叩き落とした。

「ふふ…ふっ、ふふふ…最高の気分だよ、こうじろう…いや、源田幸次郎」
「ッ…!」

可憐な筈の照美の笑顔に源田はゾクリと背筋を凍らせた。前に会った時とは明らかに雰囲気が違った。

「さあ、試合を始めようか…」





























「ぐうっ…!!」

ゴール前に立つ源田の腹にボールが食い込み身体ごと吹き飛ばされる。何点目か判らないシュートを決められ、一人でゴールを守っていた源田の身体は既にボロボロになっていた。

「この程度か?弱ぇなあ」
「こんなのに惚れてるなんてアフロディも可哀想だよな」
「…!」
「そうだ、お前に良いこと教えてやるよ。アフロディの処女はもう奪われたぞ」
「なっ…!?」
「そ、俺にな。可愛かったぜ、泣いてヨがるアフロディは」
「っ…貴様ッ…!!」
「おっと、そう怒るなって童貞くん。別に無理矢理犯したわけじゃねーから。…お前の事、忘れたいんだってよ」
「…ヘラ、デメテル。もういいよ、下がってて」
「てる、み…」

照美がボールを持って上がってきた。ヘラとデメテルは大人しく下がって行く。

「てるみ…あいつらの言ってる事は…」
「どう?僕の事嫌いになった?」

源田が言い終える前に照美は言葉を重ねる。源田はゆっくりと首を横に振った。

「…お前はそんな奴じゃない、どうしたんだ…?」
「また知ったような事を…僕は変わったんだよ。神になったんだ」
「何を…」
「見せてあげるよ僕の技。これで、とどめだ」

照美は背中に羽根を生やして飛び立った。綺麗だ。
次の瞬間、視界が暗転する。
最後に聞いたのは、けたたましく鳴るサイレンの音だった。












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