いつも一緒に遊んでいた佐久間が海外へ家族旅行に行くと言って出国したのは2日前のことで。
サッカー馬鹿の源田は佐久間がいなくても然程気にせずいつものように公園へ行き特訓に励んでいた。あまり人の寄り付かない静かな公園なので特訓するには丁度良い。
少し休憩しようと顔を上げると小さい人影が公園へと向かって来ているのに気が付く。珍しく思ってその人影を見つめていると徐々に相手の容姿が分かってきた。
とても、可愛い子だ。
その子が公園に入ってくると分かった事が二つ。サッカーボールを抱えているから、きっとサッカーが好きな子。そして、長くて綺麗な金髪と可愛らしい顔立ちから女の子だと思った。
源田は直ぐ様その子に駆け寄ると人懐っこい笑顔で話し掛ける。

「こんにちは」
「え…こ、こんにちは…」

少女は突然話し掛けられると驚いたように目を丸める。
源田は身長が高いので自分より小さい相手には怖がらせてしまわないよう少し屈んで話すのが癖だった。

「はじめまして…だよね?おれ、げんだこうじろうっていうんだ。ことしで、えーと…4さい!きみは?」
「ぼくは…てるみ。きみとおなじで4さい」
「てるみか!てるみはこのへんに住んでるのか?」
「…ううん、なつやすみだからしんせきのうちに泊まりにきてるんだ」
「そうなんだ。…ねぇ、サッカーすきなの?」
「うん、すきだよ」
「じゃあ、いっしょにやらないか?おれもサッカーすきなんだ!」
「えっ…いいの…?」
「もちろん!」
「……ありがとう」

これが、源田と照美の一番最初の出会いだった。
































それから源田と照美は毎日一緒に遊んだ。
二人で競い合いながらボールを追い掛け、二人で仲良くボールを蹴る。
そんな日々を過ごしているうちに、いつしかお互い惹かれ合っていた。この毎日が永遠に続けばいいと思っていた。
しかし、その生活にもやがて終わりがやってくる。
それは、いつものように源田が公園で照美を待っている時だった。その日は丁度佐久間が日本に帰って来る日だったので、佐久間にも照美を紹介してあげようと思っていた。

「てるみ、おそいな…」

公園に設置されている時計を見る。まだ針は読めないが、いつも照美が来る時とは違うところに針がある事くらいは分かった。
もしかして、事故にでも遭ったのだろうか。それとも、昨日は帰るのが少しだけ遅かったからお母さんに怒られてしまっているのだろうか。
一度考え出すとキリが無い。
モヤモヤしながらボールを蹴っていると、何かが此方へ向かって走って来ている音がした。
照美か、若しくは佐久間か。
振り返ってみるとその人物は意外と近くにいた。照美だ。
源田は駆け寄る。家からずっと走って来たのだろうか、酷く息切れしている。

「てるみ、大丈夫か?」
「こうじろう…ごめん、ぼくもう行かないと…でも、最後にどうしても伝えたくてっ…」
「え…?どういうことだ?」

源田は照美の言葉が理解出来ずに首を傾げた。照美は泣きそうになるのを堪えながら話す。

「ぼくのお父さんとお母さん、『りこん』しちゃうんだって」
「『りこん』?」
「うん。…だからぼく、お母さんといっしょに遠いところに行くの」
「え……」
「だから、もうここにはこれないんだ…」
「そんなっ…いやだ!おれ、てるみとはなれたくない!」

源田は泣きながら照美を抱きしめる。それをきっかけに照美も今まで我慢していたものが一気に溢れ、源田の腕の中で静かに泣いた。

「ぼくだっていやだよ…こうじろうとずっといっしょにいたい…!」
「てるみ…」
「でも…ぼく、行かなきゃなんだ」

照美は涙を拭うとそっと源田から離れた。

「…じゅうねんご」
「じゅうねんご?」
「うん。もし、じゅうねんご…ぼくたちが大きくなってもまた会えたら…」

照美は言葉を詰まらせた。この先を言おうか言わないかで迷っているようだ。照美は意を決して源田の目を真っ直ぐに見つめた。

「…そのときは、ぼくと『けっこん』してくれる?」

源田は数回瞬きをするとみるみるうちに真っ赤になった。こくこくと何度も頷く。

「も、もちろん!やくそくだぞ!」
「ありがとう、こうじろう。…だいすき」

照美はにっこり笑うと林檎のように真っ赤に染まった源田の頬に、ちゅ、とリップ音を立てて口付けた。
源田は驚いて固まってしまった。

「じゃあぼくもう行くね。…またいっしょにサッカーやろうね」
「あっ、てる…」

源田が引き留める間も無く照美は風のように去って行った。しかし不思議と寂しくは無かった。何故だかは分からないが、きっといつかまた会える気がした。

「…おれもだいすきだ、てるみ」

既に見えなくなった愛しい人を想いながら、再びボールを蹴り始めた。













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