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10年後。
すっかり成長した源田はサッカーの名門である帝国学園に入学し、かつては40年間無敗と言われたサッカー部の背番号1番を委されていた。
あの日から源田は強くなる事だけに執着した。サッカーで頂点に立てばいつかの少女と再会できると思ったからだ。
才能を生かし努力した結果、中学生にして日本一とまで言われるプレイヤーになった。
これでまたあの子に会えると期待したが、いつまで経っても少女が源田の前に現れる事は無かった。
もしかしたらもうサッカーを辞めてしまったのかもしれない。
諦めようとした、その時だった。
放課後、いつもの様に練習をしている時。ふと、誰かの視線を感じた。
帝国学園のサッカー棟はスタジアムと練習場が隣接しており、スタジアムまでの通路から練習場を見下ろす事ができる。しかし、原則としてサッカー部の練習中には一般生徒を始め教員までもがサッカー棟への出入りを禁止されている為、通路には誰も入れない筈だった。

「おい、あれ誰だ?」
「見たことない顔だな」
「転入生っスかね?入部希望なのかな」

部員達がざわつき始める。やはり気のせいではなかったようだ。
源田も顔を上げる。次の瞬間、源田は驚愕して固まった。

「あれは、まさか…」

大人びた端正な顔立ちに綺麗なブロンドの長い髪。間違い無い、源田が幼い頃に出会った少女だ。少女は幼少期の可愛さを残しつつもすっかり美人に成長しており、源田は無意識に見惚れてしまっていた。
しかし、源田と目が合った少女は慌てて視線を逸らすと背中を向けて去っていく。源田は部活中だという事も忘れ、持っていたボールを放り投げて少女の後を追い掛けた。

「あ、あの人帰っていきましたよ…って、源田先輩?」
「おい源田!?どこ行くんだ練習中だぞ!!」




























「…捕まえた」

漸く追い付いた源田は少女の腕を掴む。少女の肩がびくりと震えた。

「てるみ…だよな?久し振りだな、俺の事覚えてるか?」

照美は背中を向けたまま返事をしない。明らかに様子が変だった。
しかし源田はそんな事など気にも止めず、ただ再会を喜んでいた。

「なぁてるみ、顔見せてくれよ。俺、この10年間ずっと…」
「……は、」
「え?」
「僕は、もう…君の知ってる『てるみ』じゃない」
「それは、どういう…」
「…………」

照美は口を噤む。流石に声は変わっているも可憐な見た目に負けず劣らず、女の子にしては少し低い凛とした声だった。

「てるみ…」
「…源田幸次郎、君の噂は聞いているよ。雷門中と戦うまでは一度もゴールを割られた事はなかったんだってね」
「!知っていたのか…嬉しいな」
「…だが、頼む。フットボールフロンティアの全国大会は棄権してくれ」
「なっ…、何故だ!?」
「……………」
「俺達は雷門に負けてから更に特訓して強くなったんだ…雷門ともう一度戦う約束もしている。…いくらてるみの頼みとは言え今更棄権なんて出来ない」
「……そう、…ねぇ、『こうじろう』」
「…!」

突然名前で呼ばれて源田は目を丸くする。懐かしい響きだ。成長した照美に名前を呼んでもらえるのを源田はこの10年間ずっと待っていたのだ。

「どうした、てるみ」
「…あの約束、覚えてる?」
「勿論だ、忘れるわけがない」
「じゃあ、……」

照美は一旦言葉を切る。泣きそうな顔をしているのは気のせいだろうか。

「…今、忘れて」
「………え?」

源田は自分の耳を疑った。脳内で照美の言葉を反復してみても理解が出来ない。

「忘れるって、どうして…」
「その方がいいんだ。君にとっても、僕にとっても」
「そんなのおかしいだろ!俺は今まで…」
「じゃあ!君は僕の何を知ってるっていうの!?今だって何か勘違いしてるみたいだけど…」
「なっ…!?」

照美は源田の手を無理矢理掴むと自分の胸にぺたりとくっ付けた。そこには女性のような柔らかい膨らみは無く、自分と同じような平らな胸板があるだけだった。

「僕は男だよ。これでも信じられないなら下も触ってみるといい」
「そんな…」
「これで分かっただろう。…だから、約束は果たせない。それに…」
「嫌だ!!」
「えっ?」

照美の言葉を遮って源田が声を張り上げる。珍しく怒っているようだった。

「てるみが男だとかそんな事はどうでもいい!確かに今まで女だと思っていたが…俺のてるみへの想いはそんなちっぽけな事ではブレたりしない!」
「やめて…、もう何も言わないで!お願い、もう…っ」
「てるみ!!」
「おい源田ぁ!部活中だぞ戻れー!!」

源田の言葉に顔を顰めると大きな目に涙を溜めて聞きたくないと訴えるように耳を塞ぎながら逃げ出してしまった。後を追おうとするもチームメイトの佐久間が半ギレで呼びに来たことで漸く今が部活の練習中だと思い出した。

「俺は絶対に忘れないからな、てるみ…」

源田の声は誰の耳にも届くことなく消えていった。










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