「ふふ、シン様今日も素敵」
「……飽きないねぇ、アンタ」
カメラ越しに憧れのキャプテンを見据え、茜は嬉しそうにシャッターを切る。そんな彼女に水鳥は呆れた顔で小さく溜め息を吐いた。
「ねぇ、水鳥ちゃん。最近シン様よく笑うようになったと思わない?」
「はぁ?そんなのわかんないよ」
「水鳥ちゃん鈍感」
「茜が鋭いだけだと思うけど…」
茜の言葉に苦笑してフィールドに立つ彼女の憧れの人物を見る。ああ、確かに。前は事ある毎にぴーぴー泣いてたのに今じゃ全然泣かなくなった。シュートが成功した時なんかは笑顔も見せるようになった。
ふと、その視線を辿ってみると。
「……霧野?」
「そう、霧野くん。シン様が変わったのは、きっと彼のおかげ」
「ああ、そういえばあいつら幼馴染みだって言ってたな」
「ううん、それだけじゃないの」
「え?」
茜はカメラから目を離すと水鳥の方へ向き直る。相変わらず嬉しそうな表情をしていた。
「あの2人、最近付き合い始めたらしいの」
「へぇ〜…って、ええええ!?」
吃驚して思わず大声を出してしまった。そんな水鳥を見て茜はクスクス笑う。
「水鳥ちゃん、リアクション芸人」
「う、うるさい!てゆーか、マジかよ」
「うん、マジ」
「はぁ、アンタよくそんな話嬉々として語れるな…」
「え、なんで?」
「だって…」
言葉に詰まって茜のカメラを見つめる。今までずっと、大好きな神童を撮り続けてきたカメラだ。その視線に気付いた茜はカメラをそっと撫でる。
「…ねぇ水鳥ちゃん。もしずっとファンで大好きだったアイドルが結婚しちゃったらどうする?」
「えっ?どうするって…」
「私だったら祝福する。だって、好きな人には幸せになってほしいもん」
そう言うと茜は水鳥に写真の履歴を見せる。そこには茜が慕うキャプテンと、その恋人である桃色の髪の少年が幸せそうに笑い合っている写真が何枚も保存されていた。
「私にとって、シン様はアイドルなの。シン様の幸せは私の幸せ。…それに、」
「…?」
私には水鳥ちゃんがいるもの。
喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んで、茜は不思議そうな顔を此方に向けている水鳥にふわりと笑ってみせた。
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