皆が帰った部室で2人きり。今日の鍵当番は1年である剣城だった。

「霧野先輩、」

自主練が長引いてしまった霧野を待っていた剣城は目の前で堂々と着替えを始めようとする霧野に慌てて声を掛けた。
関係は、一応恋人同士。

「なんだ?」
「いや、その…着替えるなら先に言ってください」
「え?なんで?」
「心の準備というか、その、えーと…」
「…………」
「…うわあああ!!」

最初は剣城の言葉が理解出来ず怪訝そうな顔をして首を傾げていたが、顔を赤くしながら言葉を紡ぐ剣城の態度で大体解った。面白くなった霧野が悪戯心でユニフォームの上を胸までたくし上げてみせると、剣城の顔はこれ以上無いくらい赤くなった。

「面白いな、お前」
「……勘弁してください…」

普段はクールで冷静な剣城が顔を真っ赤にして取り乱している姿など、霧野以外の人間は到底見れないだろう。霧野は優越感に浸ると同時に剣城への苛立ちを覚える。

「でも女扱いするのはやめろ」
「でも…」
「でもじゃない」
「だって……」
「だってでもない」
「…すみません」
「素直でよろしい」

霧野は満足したように頷く。しかし、まだこの問題が解決したわけではなかった。

「じゃあ、霧野先輩を男と見込んで頼みがあります」
「おう!なんだ?」

男として認められた事で霧野は浮かれていた。躊躇している剣城の言葉を急かすようにじっと見つめる。

「なんだよ、勿体振らずに言えよ」
「胸揉ませてください」
「は?」
「胸揉ませてください」

霧野は自分の耳を疑った。状況が全く把握できない。剣城の言葉を脳内で何度もリピートするが、どう解釈してもその言葉通りの意味しか浮かばない。

「…お前正気か?」
「はい」
「じゃあお前変態だろ?」
「違います」
「いやいや変態だろ?」
「霧野先輩にだけです」
「……実はお前俺の事女扱いしてるだろ?」
「女にこんな事頼みません」

正気でないのは最早霧野の方だった。状況に脳が付いて行かず、霧野の頭はショート寸前だ。そんな中でも唯一はっきりと聞こえた『女にこんな事頼まない』。その言葉に霧野は何やらもやもやした感情を抱いた。

「…お前、女に頼めないから俺を使おうとしてるのか?」
「……え?」
「やっぱり…、俺は女の代わりなんだな」

霧野は自嘲的な笑いを浮かべる。そんな事、最初から分かっていた。あの剣城が、本気で自分の事を愛してくれている筈などないと。ただ、代わりでもいいから傍に居たかった。女扱いされるのなんて大嫌いなのに、剣城から一身に愛を受ける『女』になりたかったのだ。
涙が止まらない。

「なぁ、俺っ…剣城と一緒にいたい…うぐっ、女の代わりでもいいからっ、ゔぅ…愛してくれよ…っ」
「霧野先輩……」




むぎゅっ。
そんな効果音が付きそうな、ごく自然な動作で突然霧野の両胸が何かに覆われた。
その『何か』とは言わずもがな。

「ッッ…!!?」
「…先輩、勝手に自己完結しないでください」

まな板のように平らで、薄くだがしっかり筋肉も付いている。それでも未だ幼さが残る、程好く柔らかい霧野の胸。そんな部分を遠慮無く鷲掴んだのは他でもない、剣城であった。剣城のこんなに怒った表情を見たのはいつ振りだろうか。

「…いつ俺が先輩を女の代わりにしてるなんて言いました?」
「言ったも何も、お前の発言はそういう風にしか聞こえな……」
「それは先輩の被害妄想です」

剣城はきっぱりと言い放つ。力んだ所為で霧野の胸を掴む力も自然と強くなった。

「ひゃんっ!…被害妄想ってお前っ…」
「だってそうでしょう?一人で勝手に変な解釈して一人で突っ走って…」

わざとなのか無意識なのか、そのまま剣城は霧野の胸を揉みしだき始めた。これには霧野も待ったを掛けずにはいられない。

「ちょっ、剣城っ…」
「大体先輩はいつもそうです。勝手に一人で抱え込んで……」
「わかった!わかったから手をっ…ひゃあっ!」
「いえ、先輩は全然わかってません」
「お願いだからっ…話を、あっ!聞いて、くれっ…!ひ、やあぁっ!」
「嫌です」

段々と手付きが激しくなる。こいつは鬼か。霧野は剣城からの二重の攻めに、ただひたすら喘ぐことしか出来なかった。



…その後、霧野は見回りに来た鬼道コーチになんとか助けてもらい、剣城には2時間に渡る説教と恐ろしい量の追加メニューが課せられたのであった。



















攻めキャラが変態になる現象にどなたか名前を



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